柴犬と地元の街
コーン、コーン、コーン、、、
日の出を報せる鐘の音が澄み切った街の寒空に響く。
人々は朝食を摂った後に忙しなく労働に勤しむ。
馬が嘶き、荷車の車輪が回る音がする。
幼子の泣き声、笑い合う家族。
また毎日が始まる。
俺は短めの四つ脚で城下町を探索する。
ふわふわした毛並みにつぶらな瞳を持つ小さい生物はこの世界では珍しく見えるようだ。
それが俺、名も無き『柴犬』。
この王都で適当に過ごす犬のうちの1匹。
顔馴染みの人間は「ノーラ」「ハンザ」「ロロ」「ジャンピィ」等のそれぞれが好きなあだ名で呼んでくる。
そういった人々は俺にとってはご飯をくれるお得意様だ。
ちょっと臭う干し肉なんか貰えたらとてつもない幸運。
他の犬に食べ残しを奪われないように、花屋の植え込み付近に穴を掘って、他の犬が嫌がるセージやローズマリーを拝借して肉と一緒に埋める。
すぐに隠し場所を離れると、道端で奴らと出会う。
「おう、チビコロ。逃さんぞ。今日こそ肉の在処。教えてもらうぜ。。。」
体躯の大きな黒色の、顔に傷が沢山あるブルドッグが他の犬を引き連れてのっしのっしと立ち塞がる。
こいつがこの辺り一帯を縄張りにしている犬のリーダーだ。
俺がいつも口から肉の匂いを漂わせているのに気付いてからというもの、付け狙ってくる。
「可愛げのある、か弱い柴犬の俺様に肉を寄越せだなんて、自分の腹もろくに満たせない情けない大きな駄犬が何の用だ?」
「キサマ!、、、」
グルルルゥ、と奴らは唸り始めた。
「ニンゲンに尻尾を振って食う肉はウメェなぁ!!」
「鳴かせてやる!!」
俺は飛びかかって来たチンピラ犬をヒョイと躱すと、カウンターの後ろ蹴りを入れる。
これまで鬱陶しいから撒いていたが、そろそろ決着を付けなければならない。
「駄犬は鼻が効かないみたいだな。俺が本気で相手してないって、まだ分からないのか?」
取り巻きの犬を同じ要領でボコボコにすると、リーダーのブルドッグが前脚で俺を抑えて噛みつこうとした。
「腹がガラ空きだぜ。」
俺はスッと潜り込むと後ろ脚で勢いよく地面を蹴って飛び込み、柔らかい下腹に牙を食い込ませてやった。
「イデェェェッ!?」
キャウンキャウン鳴くブルドッグは痛みに耐えかねて降参した。
腹を見せるブルドッグ。
「参った。頼む、アンタがこの群れのリーダーだ。」
「やなこったい。」
俺は小走りに路地を抜けた。
そろそろこの街も潮時かなと思っていた。
それなりに大きな街だし、人も多いし、平和だ。
けどそろそろ旅に出ても良いんじゃないか?
柴犬の俺が何を思って旅をしたいか?
他の土地から時々『変な臭い』がする事がある。
荒っぽい人間が荷車に『変な臭い』がする獲物を持ち帰って来る事もあるし、『変な臭い』がする頑丈な服を荒っぽい人間が着ている事もある。
彼らについていけば、まだ見ぬ世界が広がっていく気がする。