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紅茶を愛する者達

作者: みかん

ーー1ーー 紅茶が好きな男子高校生


男子高校生の天野健人は「凡人」という言葉が似合うほど”普通”だ。勉強や運動は出来すぎる訳でもなく、できない訳でもなく。普通すぎるということで親が悩んだほどだと。ものに興味が無い、そんな健人だが、とても好きで集め周り、知識がとても多い飲み物がある。皆知ってるであろう


紅茶だ。


世界三大紅茶と言われればすぐにダージリン、ウバ、キーマンだと答えられるし疲労回復の効果がある紅茶と言えば無限と言っていいほど連ねて出てくる。小さい頃から好きだったようで、親に紅茶の産地へ連れて行ってくれとねだっては勘弁して欲しいと言われていた。その紅茶愛はとても大きく、時には他県へ、外国へと紅茶を求めて出かけていた。家では紅茶で棚がひとつ埋まっていて、親には頼むからもう辞めてくれと頼まれた。辞める気はないそうだが。


そんな平々凡々な健人なのだが、本人はそれでいいと思っている。いくら平凡だろうと自分が好きなもの、紅茶さえ愛せれば良いのだ。



「うーん…」


そう横で唸るのは友達の鈴本雨音。もう二人、佐藤裕二と神成琴菜と共に四人で勉強会をしている。四人は数少ない、健人の趣味を知っている人物。そして紅茶の話を楽しそうに聞き、美味しそうに飲むものだから健人も毎回振る舞いたくなる。

三人の手が止まり始めソワソワとしだしたのを見て、健人は立ち上がった


「紅茶にしよっか。」


そういうと三人はガッツポーズをして喜んだ。その表情を見ると良い紅茶をいれようという気持ちになる。棚からディンブラの茶葉を取り出し道具を用意した。その間も三人は紅茶に向けて勉強をしている。キッチンからその様子を見ている健人は不思議と、どこか母親のような気持ちになった。



「できたよ。ディンブラ」


「今日も初めて聞く紅茶だな!」


裕二の言葉にほか二人も頷く。それを見て健人は少し満足した。そしてディンブラの説明を始めていく。


「ディンブラっていうのはスリランカで取れる茶葉で、香りや味、色。全てのバランスが取れているんだ。だからストレートでも、ミルクティーでも美味しいんだよ。初心者にはとてもオススメだ。僕はこの紅茶を飲んだのは…最後が一昨日だったと思う。時々飲んでるんだ。どうぞ」


これだけ長い話も三人は黙って聞いてくれる。いい友を持ったとしみじみと思いながら紅茶を差し出した。


「ん、美味しい!」


琴菜がもう一口、と口に含む。続いて雨音と裕二も含む。健人も一口口に入れ、今日もいい出来栄えだと一人頷いた。


全員が飲み終わりお礼を言われた健人は慣れた手つきで道具を洗っていく。ついでに家の洗い物もやってしまおうと思い、先に勉強をしておくよう伝えた。そろそろ秋になる。少し寒く感じてから、浮かんだのはまた紅茶のこと。世界三大紅茶の一つであるダージリンの収穫時期は三回ある。ファーストフラッシュ、セカンドフラッシュ、オータムナル。丁度秋の九月頃からオータムナルの収穫時期だ。オータムナルはコクのある深い味わいが特徴的で色もファースト、セカンドフラッシュに対して濃くなっている。是非とも買いに行きたいなぁと思って洗い物をしていたら、全て終わっていた。手を拭き皆の元へと戻り、勉強を再開するとすぐに雨音の話でテスト勉強は中断された


「ねぇ健人、紅茶大会っていうのがあるんだって。行ってみたら?」


そう言われ三秒ほど意味を考えてから結論を出した


「行かない。」


予想外だったのか三人とも手元から顔を上げこちらを見ている。その目は大きく開いていて、今にも同時に「え!?」と言ってきそうだ。


「なんでだよ?」

「せっかくなんだから行けば良いじゃない」


健人は誘いを断ることは少し悪く思いながらも、考えを曲げることは無い様子。理由は二つほどある。まず、自分にそんな紅茶の知識がないと思っていること。そして自分の中で好きでいれれば良いという思考回路だ。その旨を伝えると三人ともガクンと肩を下ろすと同時に困ったような表情をした。健人がそれを見て首を傾げると声を揃って言われた


「「「知識あるわ!!」」」


その迫力に少し驚いたが落ち着いて手元に目線を戻しシャーペンを動かしながら答えた


「僕なんて世界の紅茶通に比べればまだまだひよっこだからさ」


三人とも小さくため息がをした。健人はそれに気づかずまだ黙々とペンを進めている。やはり変わり者だと三人は思い、少し微笑んでから自分たちもペンを動かし始めた。


(健人らしいなぁ)


そんなことを考えながら。




ーー2ーー 紅茶が好きな女子高生


佐藤二葉は目の前の茶葉をみて首を傾げていた。こんな茶葉を買った覚えは全くない。紅茶を整理していたら見つかったのだが、何なのか分からないゆえ、楽しんで飲むことは出来ないだろう。机に視線を固定し、ひたすらに頭を回していた。二葉には母親はおらず、父に男手一つで育てて貰った。寂しさからかなにかにのめり込みたかったため、小さい頃から父に教えて貰っていた紅茶にターゲットを絞った。父が友人から良く茶葉を貰ってきて、その時に聞いた話を聞かせてくれるのが最近の楽しみである。


「どうしよう。」


パッケージは詰め替えていて何か分からない。再び頭を回すとある事を思いついた。


「そうだ!利き紅茶しよう!」


そう決め、棚から道具を取り出した。ついこないだ買ってもらったばかりの新品。もう手順は分かっている。



カップに入った紅茶をながめ、手で持ち上げ鼻の辺へと持って行った。次に口に含み、味を感じながら飲み込んだ。

間違いない、と確信してからカップを置いた。


「ニルギリだ!」


ニルギリというのは紅茶のブルーマウンテンと言われるインドの茶葉で、渋みが穏やか、香りはほんのりフルティー、と初心者でもとても飲みやすいフレーバーだ。この特徴的な匂い、味。そうと分かれば、と袋に「ニルギリ」と書いておいた。


「これでよし!」


区切りが着いたところで玄関の扉が開く音がした。父が帰ってきたのだろう。ワクワクしているとリビングの扉があく。


「ただいま」

「おかえり!」


そう出迎え、今日の紅茶を知りたくて詰め寄る


「お土産は?」

「ヌワラエリヤだ。」


聞いたこともない茶葉に俄然興味が湧いてきた。次の父の言葉を待っていると先に疑問をぶつけられた


「この袋、ニルギリなんて書いてあったか?」

「あぁ、何か分からなかったから飲んでみて書いといたの。」


そう答えると父は少し驚いた


「お前、飲んだだけでわかったのか?」

「うん。ニルギリは特徴的だからね」


そう答えながらヌワラエリヤの茶葉を見ていると父は少し笑った


「その茶葉をくれる人な、俺の昔からの友達なんだがそいつも紅茶が大好きなんだよ。色々なことを聞いてきたがまさか娘がこんなに紅茶を好きになってくれるなんて…嬉しい。ありがとう」


お礼を言われた意味は分からなかったが、なんとなく嬉しくなった。優しく頷き、再びヌワラエリヤの説明を求めた。私はただ、好きな事をしているだけだ。それで父にお礼を言われて不思議な気持ちだが、まぁ良いかと大人しく説明を聞いた。


ーー3ーー 夢の紅茶


「凄いです!また当てました!さすが紅茶の女王!!さぁ、続いては強敵の天野さんとの決勝戦です!!」


利き紅茶。今テレビで話題の番組だ。世界中から紅茶好きを集めてどちらが先に紅茶を当てられるのか競う番組。最近では急に出てきた女子高生と紅茶を昔から愛するおじいさんとの決勝戦が見ものだ。自分もいつかこの番組に出られたらなーと夢を頭で描いた。知識はあるのだ。知識だけなら他の誰にだって負けない自信がある。だが、圧倒的経験の差。自分は紅茶を飲んだことがない。家が貧乏で自分の物を買ってもらうのでいっぱいいっぱい。母が頑張って働いてくれているからと我慢しているが、やはりこう、小さい頃から恵まれた環境で、好きなものを買えるというのは良いなと思ってしまうものだ。


ガチャ。


母が帰ってきたため、テレビを消した。ダメと言われている訳ではなく、母の前で紅茶に関する番組をみるのは当てつけのようで宜しくない。すぐさま手元の本に目をやった。本の中では主人公が優雅に紅茶を飲んでいる。

羨ましい

その気持ちが無いわけでは無いのだが、仕舞っているのだ。表に出したところでどうにもならないとわかっているから。


「帰ったわよ。ごめんなさい昭弘、まだやる事があるからご飯は頼むわね」


「わかったよ、お母さん。」


飲んだくれで自由気ままにパチンコやスロットや競馬に行っている父の代わりに、必死に働く母。その母を支えるため、今はまだワガママは言えない。高校生になりバイトができるようになったら、必死にバイトをして貯めたお金で紅茶を買おう。そう心に決めていた。それまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせ、我慢した。



十一月二十四日。今日は俺の誕生日。何をプレゼントで貰えるのだろうとワクワクした。ケーキなんか食べれるわけもないので誕生日の日はお肉が少し多く出る。それだけでも嬉しいから俺は別に良いのだが、母はいつも謝る。今日も謝ってからプレゼントを渡された。紐をとき、ゆっくりと箱を開ける。すると、箱を開けた瞬間俺は固まった。


紅茶


茶葉が入っていたのだ。これはウバだろう、世界三大紅茶の一つであり、ストレートで独特の味が楽しめるウバ。あの茶葉。

夢のようだった。いや、ほんとに夢なのではと疑った。嬉しすぎて言葉が出ないでいると少し恥ずかしそうに母は頬をかいた。


「喜んでもらえたかしら…?」


そう心配そうな母の肩に手を置いた


「もちろん!!!!すごく、すっごく嬉しい!!!!ありがとうっ、!」


中学生にもなって泣くのはかっこ悪いと、すぐに目元を隠した。母にはバレていないようだ。


いつか、大物になってやるから。

初めまして。初描きなのですが、そこそこ満足のいくものとなりました。私自身紅茶が好きなため、(飲んだことはない)今回こういう形で書いてみました。気に入って頂けたら嬉しいです

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