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ドラーニャはズルいとは言わない

 またある日の事、ドラーニャは本で分からない部分を兄に尋ねた。


「この『お姉さまはズルいですわ!』のズルいとは何でしょう」

「ふむ……」


 やはり少し考え込むが、賢いドランはすぐに答えを思い付いた。


「ドラーニャ、我々は脱皮をするよね」

「ええ、そうですわね」

「その時皮はズルリと剥ける、と言ったりする」


 ニヤリと笑うドラン。


「まぁ、ではまさか」

「皮がズルリと剝けている、の形容表現でズルいなのだろう」


 だが、それではこの場面にふさわしくない気がした。


「ですが分かりませんわ、脱皮は成長の証で喜ばしい事なのに、ここでは悪い意味に使っているように見えます」

「ドラーニャ、人は脱皮しない事は知ってるかい」

「ええ、人も獣人も、殆どの国家の人種は脱皮しない事は習いましたわ」

「それを前提に、女性の傷は忌避される傾向が有る事を加えて考えると」


 そこでドラーニャに電流走る。


「は! 確かに、龍族でも傷のない羽根や体を自慢する傾向が有ります」

「そう、つまり傷持ちであると当てこすっているのさ、皮がズル剥けの癖にと」

「まぁ、何て下品な……」


 うら若い女性に対し、傷持ち令嬢だなどと真正面から言う事がどれだけ配慮の無いものか。

 ドラーニャにもそれは察せられた。


「家族・姉妹と言う近い存在だからこそ、一度憎んでしまえば他人よりも強い憎悪を向けてしまうのかも知れないな」

「そうですわね、遠慮のいらない間柄と言うのも有るでしょうが……」


 このような言い方では、例え相手は傷付いても周りの人間は顔を顰めるだろうし、本人も品性下劣の烙印を押されるだろう。

 寧ろ言った方が悪く見られる可能性もある。


 それほど下品な表現と考えられる言葉を使うこの妹は、本当に姉をどうやっても傷付けたいのだろう。




 ドラーニャはどんなに嫌いな相手でも、決してズルいなどとは言わないように心に誓った。


 留学先でズルいと言った女生徒 (妹)に出くわしたドラーニャは、

「人の傷をそのように言うものでは有りません!

 見えない部分の皮がズル剥けていたって貴方のお姉さんは立派な方よ!」

と周りと、特に姉妹を赤面させた。


 以来妹はズルいとは言わ(言え)なくなり更生し、姉から微妙な顔で感謝されたのだった。


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