ドラーニャは力を溜めている……
龍族の知識階級の少女、ドラーニャ・ドラクルスは人の記した書物を読んでいた。
中でも恋愛小説が好きで、今読んでいるのもその中の一冊だった。
「ねえお兄様」
「なんだい、ドラーニャ」
ドラーニャが尋ねたのは兄であるドラン・ドラクルス。
「私、この本に書かれている内容で分からない事が有るのですけど」
「ふむ、どの部分だい」
「この『私の婚約者である令息は溜息を吐き』と言う部分、溜息とは何であるのか、これを吐く事で何を表現しているのかが分からないのです」
「ふむ」
本を覗き込み、少し考え込む素振りを見せるドラン。
そして答えが分かったのか、自信を持った顔をしてドラーニャの方を向く。
「恐らくだが、溜とは溜める事、そして息をするのだから溜めた息を吐く。
これは我々のドラゴンブレスと同じ攻撃を意味するのではないだろうか」
「まぁ……では人もブレスを吐けるのでしょうか」
「いや、人がブレスを吐くというのは聞いた事が無い。
これは寧ろ比喩表現であり、ブレスを吐く程に威嚇・或いは怒っている事を表現しているのだろう」
「なるほど、では令息が『私』に対して怒っている事を表しているのですね」
「そうだね」
流石ですお兄様、と兄を尊敬の眼差しで見つめる。
そして溜息と読みがなを振った。
ドラーニャは力を溜めている・・・
ドラーニャは溜息を吐いた!
その後人の国に留学したドラーニャは溜息を吐く相手を見て
「こんな場所で人に向けて溜息など、三下のやる事ですわ」
と表面上は合っていそうな事を言って大層混乱させた。