2人の女性が常識人の場合2
今日は王立ザマァール学園の映えある卒業式
貴族しか通えないこの特別な学園を卒業した者達はこれから本格的に社交界に羽ばたいていくのだ
そんな記念すべき日の卒業パーティー、これから皆友人と歓談し3年間で温めた交流を再確認してこれからの将来を語り合うおめでたい席に場違いな私情の絶叫が響き渡る
声を張り上げたのは色ボケして馬鹿になって第二王子に王位継承が移行すると専らの噂である王太子、ドウテーイであった
「ハラグーロ侯爵家令嬢、タナボターナ!!貴様の次期王妃としてあるまじき振る舞いの数々!!もはや看過できん!!貴様との婚約は破棄とする!!
そして私はこの愛らしい!クラミジア子爵家の三女であるケジラミーナと結婚する!!!
タナボターナ!!貴様は処刑だ!!」
会場は白けに白けた
クラミジア子爵家令嬢、ケジラミーナといえば容姿は整っているものの…
"顔さえ整っている男なら例え浮浪者であろうとも何ヶ月も洗ってないイチモツに悦んでむしゃぶりつく"
"そのくせドレスや宝石もだいすき"
本人はぶりっ子で誤魔化せていると思い込んでいるものの、それが皆の共通認識であり、淑女の風上にも置けない公衆便所令嬢であることは暗黙の共通知識となっている
一方でハラグーロ侯爵家令嬢、タナボターナであるが…
こちらも高位の貴族令嬢のくせにスラム街の荒くれ者と通じていたり違法薬物の原料となる隠し畑やら精製、販売に父親と一緒に関わっていたり怪しい呪術のための生贄に使う人間の誘拐サービスなどが家業に盛り込まれているのが公然の秘密…である
何かを掴んだものは闇から闇へ葬られ決定的な証拠が無いため、王家も二の足を踏まされているのが実情だ
女同士の醜い口喧嘩でボロを出しまくったタナボターナと、淫行に関する色々な余罪(タナボターナよりは百倍軽いが)をベラベラ喋ったケジラミーナは警備の兵などではなく慌てて駆けつけた国王陛下直属の特務騎士団に問答無用で拘束されて会場から荷物のように運び出された
馬鹿丸出しの王太子も近衛騎士団にかなり雑な扱いで連行されていった
「あ、こうなりますのね…」
「…かなり酷い展開でしたね」
国家反逆罪そのた諸々の罪状が読み上げられ、何十人もの死刑が宣告されて白けきった会場の中央ステージからそこそこ離れたところに着席していた2人の令嬢は遠い目をして会話をしていた
宰相を父に持ち類まれなる美貌と優雅で高貴な立ち振る舞いから淑女の鑑と言われながらも、領民のために務めをまっとうする意識が高く、心優しく身分を必要以上に振りかざさない人徳者として知られる公爵令嬢リーゼロッテ・ヴァン・フェラガモリア
希少な光の魔力を発現したことから父親であった男爵に引き取られたマリア・フォン・エスペランザ
入学当初は最近まで平民だった者など!と眉を顰める者もいた彼女だが礼儀正しく物腰は柔らかい彼女は学園に自然に馴染んだ
そしてなにより、この二人の身分を超えた美しい同性の友情は生徒達にとっても教師達にとっても一服の清涼剤であった
次期国王(一応)がドクザレビッチに完全にボケており、毎日青筋を立てている婚約者は犯罪のデパート…
この国どうなんだよ……とみんなが思っている中、優秀で有名な第二王子殿下の存在と、公爵令嬢と男爵令嬢がのほほんとお茶をしながらも国のこれからについて見識の高い会話をしている風景に皆は「まだ大丈夫、この人たちが居るから大丈夫」とエールを3年間送っていたのだった…
「いやあしかし、エリ様」
「せっかくのほほんと過ごしてきましたのにね…婚約者違う子に決まったと聞いた時はマリアちゃんと争わずに済むわぁと思いましたけれど」
「いや、私そんな夢見る馬鹿女じゃないですからねw」
「入学当初は予想出来ませんもの…今はよく知っておりますけど」
「えへへ…これからも仲良くして下さい!」
「こちらこそですわ!」
ここからは内緒話レベルの小声であった
「にしても代役ひっでぇですね」
「ね〜
他にも年頃の高位貴族の令嬢居るのにタナボターナ様は無いわぁ」
「王族たるもの清濁併せ呑むっつったて限度がありますよね限度が」
「あんなんサリンとかカエンタケでしょw」
「清い部分まで全部汚染されますよね」
その後、聖女に覚醒した男爵令嬢は大神官の息子と結ばれて国民の心の支えとなったそうな
立太子した第二王子と公爵令嬢は最初はよそよそしい事務的な関係が散見されたそうだが時間が経つごとに小さく芽生えた愛は深まり、国王と王妃(賢王&賢妃と讃えられた)となった頃には国民を胸焼けさせるぐらい熱々だったそうな
4人の美しい友情はいつも国民を笑顔にしたのでした
めでたしめでたし