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メイドさんは婚約破棄されて実家に帰ってきたお嬢様を元気づけたい  作者: りんご飴ツイン


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最終話 あるいはラブストーリーのプロローグ

 


 王城での闘争を経てようやく目覚めたというのに部屋から出てこなくなったネネが心配で、不快に思われることを覚悟で合鍵を使って扉を開けると、いきなり辞表を渡された。



「ネネ? これはどういうことですか?」


「……っ」


 気まずそうに目を逸らすネネ。

 多少願望が混じっているかもしれないが、アリアはネネに嫌われてはいない自信がある。そうでなければアリアと一緒がいいと望んではくれなかっただろう。


「ネネ、何か言ってくれないと困ります。どうしてメイドを辞めようと思ったのですか?」


「…………、」


「もしかして第一世代などという過去をまだ気にしているのですか?」


「…………、」


 ネネは『本国』によって魂レベルで弄くり回された人間兵器である。そうあるべしと定められ、同じ第一世代を処分したりと決して手放しでは褒められない過去がある。


 そう容易く吹っ切れられるものでもないのだろう。メイドとしてアリアのそばにいてはいけないと、そんな風に思い詰めてしまうことだってあるだろう。


 ならば、アリアは何度だって示すまでだ。

 ネネがどんな人間であれ、それでも、貴女にそばにいてほしいのだと。


 アリアの紛うことなき本音を、大切で大好きな貴女に吐露するだけだ。


「ネネ」


 一歩、前へ。

 アリアは胸の奥から熱く迸る感情のままに愛しくてたまらない最愛の人を抱きしめる。


 甘く、漏れるような吐息と共に言う。


「わたくしはネネが大好きですわ。他には何も望みません。貴女さえおそばにいてくれたならば至上の幸せに浸れるのですから。ですのでメイドを辞めるなど言わないでください」


 そして。

 そして。

 そして。



「こっここっ、こういうのがもう耐えられないからメイドを辞めるって言ってるんだよう!!」



 ()()()()なので敬語抜きに吐き出すネネ。『暗器』を失おうともなお健在な身体能力で器用にアリアの抱擁から抜け出す。


「おっお嬢様っ、最近どうしたの!?」


「どうした、とは?」


「なんで首を傾げるかなあ!? ご飯の時はメイドと主人だってのに私を膝の上に乗せて『あーん』とかしてくるし、移動時は基本手を繋いだり腕を組んだりだし、すっ、すすっ、好きだなんだとサラッと言ってくるし、ボディタッチ多すぎだし、お風呂だって当然のように一緒だし、何なら寝る時だって同じベッドだもんね!! 距離感がおかしい!!」


「何を言い出すかと思えば、そんなことですか」


 アリアは不思議そうに目を瞬く。

 幼子へ世の摂理を語って聞かせるような優しい声音でこう答えたのだ。


「『もう二度と離したりしないですからね』と言ったはずですよ」


「だからって極端すぎなんだよう!! 敬語抜きは駄目なのに、距離感詰めまくるのはなんで大丈夫なのよ!?」


「それとこれは別の話ではありませんか」


「そうかなあ!? めちゃんこべったりスキンシップに比べたら敬語抜きで話すほうが難易度低いと思うけど!?」


 ──そもそもアリアは幼き頃からネネに好意を抱いていた。そのことは彼女の発言を精査するまでもなく丸わかりだろう。


 そんなアリアが王立魔法学園に通うために王都に出向きネネと離れ離れになった。それだけでも耐え難い苦痛だというのに、王都は第一王子主導で負の感情を誘発するための悪意に満ちていた。そうして第一王子の思惑通りに死を望むほどに追い詰められたアリアはこの街に、ネネのそばに帰ってきた。


 はじめは、恐怖が勝っていた。

 素直にネネの手を取れるだけの余裕はなかった。


 それも時間の問題だった。

 ネネのそばにいたいと、もう離れたくないと、そう望むのは当然だったのかもしれない。


 だけど、現実はそう甘くはない。第一王子の思惑、第二世代とやらの襲撃。このどうしようもなく悲惨な世界は唐突に最愛の人へと牙を剥く。


 本音を隠していても後悔するだけだ。

 どうせ一度は死を望んだ身、死んだつもりで挑めば──吹っ切れてしまえば、なんてことはない。アレコレ並べ立てたところで、アリアの望みは一つしかないと気づけるはずだ。


 ネネが好きなのだと。

 溢れるばかりの本音を隠す理由はどこにもない。


 だけど。


「もしかして、嫌でしたか?」


 その声は恐怖に震えていた。

 何が怖いかと、ネネに拒絶されることに決まっていた。


 それこそ第一王子の悪意や第二世代の襲撃が霞むほどに。


「いや、そうじゃないって! 私だってお嬢様のそばにいたいし、その、触れ合えるのだって嫌じゃないのよ。むしろ嬉しいくらいだしね」


「でしたら」


「だけど!!」


 その顔は熟れた果実のように真っ赤で。

 その瞳はぐちゃぐちゃな感情に潤んでいて。

 その声は好意を隠しきれないほどに甘く。


 だからこそ、ネネはこう叫んだのだ。



「幸せすぎて身がもたないんだよう!! だって好きな人が積極的に近づいてくるんだよ? 私のような人間には刺激が強すぎるんだってえ!!」



 好きな人、と。

 確かにネネはそう言った。


「うう、なんでこうなったのよ? そりゃお嬢様のことは好きだし、こう、イチャイチャできれば最高だと妄想しない日はないけど、だからといってこんなのは過剰すぎるっ。キャパオーバーだよう!!」


 アリアからネネに好意を示すことはあれど、ネネからアリアに好意が示されてきたのは幼い頃だけだ。


 もちろんメイドとしての範疇を超えて命懸けでアリアを救ってくれたのだ。単なる主従関係だと割り切ったものではないとは思っていたが、ネネがアリアに向けて明確に『好き』だと示したのは幼い頃のみ。


 今のネネがアリアのことをどう思っているかは明確にはされていなかった。


 それが、こうして示されたのだ。

 ならば、


「というわけで冷却期間が欲しいんだよねっ。色々いっぱいいっぱいだから落ち着くまでは距離をとりたいなーって、ね?」


 わかってくれる? などと震える声で問われては我慢の限界だった。



「やっぱりネネは可愛いですわあ!!」


「うっにゃあー!?」



 もう一度、力の限り抱きしめた最愛のメイドから驚きと歓喜の入り混じった悲鳴が炸裂した。



 ーーー☆ーーー



 世間一般においてアリア=スカイフォトン公爵令嬢は悪い意味で有名な人物である。


 今は亡き第一王子より婚約の破棄を突きつけられたほどの悪女なのだから。


「よおネネっ。珍しい魚が手に入ったんだ! 今夜の夕食にどうだ!?」


「おっさん、見てわからないかな!? そんな場合じゃないから!!」


「……、ははっ。なんだ、もう大丈夫なら大丈夫と言ってくれよな」


「この状況のどこをどう見て大丈夫って判断したのよ!?」


 そのような悪女たるアリア=スカイフォトン公爵令嬢に、しかし当の公爵家のお膝元である街に住む者たちは忌避感を抱いてはいなかった。


「あら、ネネさん。元気そうでなによりですわ」


「いやまあ元気っちゃ元気だけどさっ」


「そうそう。公爵令嬢様からご注文いただいていたものですけど、お似合いなものをと考えていたらウェディングなドレスになったのよねえ。婚約破棄なんてことがあったからどうしたものかと思っていたけど、うん。どうやら問題なさそうですわ。何ならネネさんのウェディングドレスも仕立てるべきかしら?」


「ぶえっふう!? なっ何言っちゃってくれているのかな店長さん!?」


 本来であれば雲の上の存在である公爵令嬢のことなど、多くの民は知り得ない。アリアという一人の人間がどんな人物か知らなければ噂をそのまま受け止めて忌避してもおかしくなかったというのにだ。


「あっ、ネネ……っ! これ女王様からの依頼で打ってみたんだけど、どう……?」


「どうって、うっわー。また腕上がった? もう『脅威』も裸足で逃げ出すようなとんでも魔剣じゃんそれ!? 本当カナリアってば凄いんだからっ」


「ふふん……っ! そんなこと、あるかな……!!」


「っていうか、女王が魔剣を注文? 何かしらの敵に備えているとすれば……やっば。もしかして王城でのアレソレで変な危機感抱いているのかも!?」


 街の『みんな』は知っていた。

 アリア=スカイフォトン公爵令嬢はネネにとって大切で大好きな相手なのだと。


 どうにも不器用で、『何か』を隠して真の意味での本心を隠して『みんな』と接している彼女が唯一心からの好意を寄せる相手である。


 悪い人なわけがない。

 だからこそ街の『みんな』はアリア=スカイフォトン公爵令嬢に忌避感を抱くことはなかった。


「ハッ! 随分とまー見せつけてくれるじゃねーか。そりゃー浜辺できゃっきゃうふふ追いかけっこするようなもんか?」


「クラウスっ。こっちは切羽詰まっているってのにその反応はないんじゃないかなあ!? 見た目はイチャイチャ的なアレソレかもだけどね!!」


「惚気かよ、くだらねー」


「惚気じゃない……かな? いや、まあ、うん。惚気かもしれないけどさあ!!」


 そんなアリア=スカイフォトン公爵令嬢の現状は以下の通り。



「ネネえ!! わたくしは、もう! 絶対に!! 貴女を離したりはしないですからね!!!!」


「嬉しい、うん、嬉しいよ? こんな私が好きな人に求められているだなんて最高の幸運なんだもの。だけど、だけどさあ!! これ以上お嬢様成分過剰摂取したら私死んじゃうんだってえ!!!!」


 大切で大好きなネネを追いかけて街中を爆走していた。



 もう公爵令嬢としての顔など吹き飛びに吹き飛んでいる有様だが、そんなものより大事なものがあると気づいたのだ。


 例え『脅威』が立ち塞がろうとも、完全に燃え上がった『好き』を止めることはできないだろう。



 ーーーfinーーー

はい、というわけで完結です!!


本作は十万文で一区切りを目指していたのですが、どうだったでしょうか? 長期的に連載するなら最強さんには控えてもらって『本国』とネネたちをぶつけるなり、元第一王女にして新女王やラグ=スカイフォトン辺りとぶつかっていたのかも?


一応これでも恋愛ジャンルなのでメインはネネとアリアのラブストーリーのつもりです。第一王子だの第二世代の二人だのは『恋の障害』ってヤツですね。……普通の恋愛モノならリアナ辺りの立ち位置のキャラが当て馬的にぶつかってくるのかもしれませんが。


一応本編としてはここで一区切りとなりますが、機会があればその後の物語なども投稿したいなと考えてもいます。こういう終わり方ならネネとアリアのいちゃつきっぷりはもちろん、色んな角度から物語を進められそうですしね。


ここまで読み進めていただき、どうもありがとうございました。よろしければ感想をいただけたりするとありがたいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 花を撒いて happyEnd 本当に素晴らしい ストーリーが素晴らしい 展開も自然 アクション部分は完璧とは言えない もっと内面描写があればよかった but very good(;´༎ຶД༎…
[一言] アリアは最初の印象とは全然違って、かなり押しが強いんですね。ネネが「好き」って言った瞬間から一切話聞いてなかったし……。ネネはお嬢様の押しに慣れるまで生きていられるかな……? 街の人たちもな…
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