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メイドさんは婚約破棄されて実家に帰ってきたお嬢様を元気づけたい  作者: りんご飴ツイン


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第二十七話 空白の一ヶ月の間に

 

 時間感覚ががぶっ飛ぶくらいだった。

 何せあのお嬢様に押し倒されていたんだよ? 密着フィーバーだったんだし意識を失わなかっただけよくやったほうじゃない?


 今は、部屋にお嬢様はいない。

 喉が渇いているだろうから水を持ってくる的なことを言っていた……はず。


 それはそうと、よ。

 時間感覚がぶっ飛ぶほどの幸福の中、混濁した頭にある言葉が残っていた。



 私は『一ヶ月』も意識不明だったんだとか。



 正直言って、予想外だった。

『ファクトリー』による魂への干渉はリアナ=クリアネリリィ男爵令嬢の光属性魔法で『元に戻った』とはいえ相応の『教育』を施されているので肉体さえ癒えれば一日も経たずに活動再開できるものと目処をつけていたんだけど。


 裏切った私の処分、そして『賢者』の遺産の一括管理権限とやらに必要なお嬢様の身柄の確保に『本国』が動くにしても数日から一週間の猶予はあるはずだから、その猶予を使って今後の方針を考えるつもりだったのにっ。


 一ヶ月? はっきり言ってお嬢様が無事なのは奇跡なほどよ! 一ヶ月寝たきりでも問題なく動かせるくらいに高性能に『教育』された肉体はともかく、魂を『元に戻した』影響が現れたんだろうけど、それにしても惰眠を貪りすぎよ!!


 少なくともまだ新手は現れていない。

 だけど、どうして? いくらなんでも『本国』が事態を把握できていないわけがなく、追加の刺客を送り込むのは当然なのに、わざわざ一ヶ月も見逃したのはなぜ?


 と、そこで私はこそこそ侵入してきた彼女に声をかける。



「乙女の寝室に不法侵入だなんて本当不躾な人よね」



 途端に闇が渦巻き、全身漆黒のローブ姿の女が現れた。


 連絡役。

『本国』の正式な諜報員が、よ。


「『暗器百般』は消し飛んだはずなのに、どうして闇属性魔法による姿消しを見破れたのでありますか?」


「……、視覚を誤魔化す闇属性魔法を見破るのに『暗器』を使ったことなんてないからよ。その程度、『教育』で培った感覚でどうとでもできるし」


「貴女見ていると、諜報員としての自信がなくなってくるでありますよ」


 チッ。初手からぶっ込んできたわね。表情変えなかったことを褒めたいくらい。


 ──『暗器百般』が消し飛んだってのをどうして知っているわけ? 少なくとも第二世代とやり合っていた時は連絡役の女の気配はなかったから、あの戦闘の一部始終が目撃されたってのはあり得ない。まあ、あの後私は気絶していたから、お嬢様やリアナ=クリアネリリィ男爵令嬢が王城から私を連れ出しているのを目撃していたとしたら光属性魔法による治癒を受けたくらいは検討がつくにしても、『元に戻す』治癒方式にまでは辿り着けないはずなのに。


 私が把握していない何かがある。

 それこそ致命傷に繋がりかねない何かが。


「それで? わざわざ『本国』の諜報員が何の用? いくら何でも私が『本国』を裏切ったことは知っているにしても、あんたに私の処分を命じるほど『本国』も耄碌してはいないと思うけど」


「確かにいかに『暗器百般』を失ったにしても第一世代は第一世代であります。正直、ただの諜報員には手に余るでありますよ」


 違和感は、あった。

 だけど事態は状況を精査する時間など与えてはくれなかった。


 次の瞬間、決定的な一言が放たれたのだから。



 ーーー☆ーーー



 その時、ラグ=スカイフォトンはこう言った。


「国家を揺るがす『何か』とアリアや例のメイドの関係は不明なれど、やることは変わらない。うまく立ち回り、利益を得るだけだ。……貴族お得意の賄賂だの脅迫だの暗殺だので対応できるものであればいいがな」



 その時、新たなる女王はこう言った。


「国家上層部を根こそぎ粉砕した第一王子勢力さえも皆殺しとした『何か』。それが何であれ、のんびりだらだらスローライフを邪魔してくるのは明白だよねぇ。となれば、あらゆる手段を用いてやっつけないとねぇ。……戦争とか面倒だから穏便に済ませたいものだけどぉ」



 その時、全身漆黒のローブで覆った連絡役の女はこう言った。


「まあそもそもの話、『本国』は壊滅状態なので裏切り者をどうこうする余裕などないのでありますが。……本当無茶苦茶でありますよね、あの人」



 ーーー☆ーーー



 …………。

 …………。

 …………、ええと。



「はぁ!? 『本国』が壊滅状態ってどういうこと!?」


「言葉通りでありますよ。貴女も良く知る彼女が大暴れしてくれたお陰でありますね。ま、そのせいで存在しないということになっている諜報部所属の私は無職まっしぐらなのでありますが」


「……まさか」


 第二世代と激突したあの日、リアナ=クリアネリリィ男爵令嬢は空から降ってきた。正確には風系統魔法で飛ばされてきたのよ。


 だけど、件の男爵令嬢に風系統魔法は使えない。っていうか、あの時感じた魔力の残滓は覚えのあるものだった。


 あの魔力の持ち主は──



「No.13。貴女と同じく第一世代の人間兵器として活動していた彼女が『賢者』の遺産と『ファクトリー』産人間兵器を無力化するとかいうリアナ=クリアネリリィ男爵令嬢を引き連れて『本国』を蹂躙したのでありますよ」



 やっぱり最強さん、か。

 なるほど、あの人なら『本国』相手に勝利したって不思議はないわね。いやまあまったく驚いていないってわけでもないけど!


 暗殺や諜報といった裏方専門の私と違い、わかりやすい力や美で立ち回って『役目』を果たすことをコンセプトとしたNo.13は他の第一世代と比べても全てが抜きん出ていた。


 中でも魔法関連を詰め込みに詰め込んでいたので()()()()()()()()()()()()()()()


 それでも『ファクトリー』にいた頃は魔力量だけならお嬢様ほどではなかったけど、魂(魔力量)は喜怒哀楽とにかく強い感情で増幅されるからね。


『一つ聞きたいことがある』


『ファクトリー』での一幕。

 今でも凛とした声音とはかけ離れたあの瞳が忘れられない。


『現状をアナタはどう感じる?』


 強く、輝いていたあの瞳。

 私と違ってあの頃から最強さんには『何か』があった。そんな最強さんなら『本国』の知らない間に喜怒哀楽とにかく何かしらの強い感情を湧き上がらせて、魂を輝かせていても不思議はない。


 そう、安全装置を突破して『賢者』の遺産の一括管理権限を獲得できるだけの魔力量を確保していたとしてもね。となると、どこかのタイミング……多分私が気絶している間にあの黒い球体を奪うなり偽物と入れ替えるなりしたってことかな。


 ……リアナ=クリアネリリィ男爵令嬢も連れていたってことは二人はグルだった、ってのはあの時の様子からちょっと考えられないとなると、あの場を利用して光属性魔法の性能を検証したのね。


 そのお陰でお嬢様を助けられたから別にいいけどさ、一言あってもよくない? 知らない仲じゃないのに薄情なんだから。


「そっか。最強さんがねえ」

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― 新着の感想 ―
[一言] リアナがいないのはなんでだろう? と思っていたら……そうか、最強さんに連行されてたか……。 っていうか、最強さん仕事はやっ。 さっきも思ったんですが、お兄ちゃんって地味に優しい人……? アリ…
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