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4)サイモンの居場所

 王太子宮には様々な人がいた。

 庭師のジェームズは左手が無かった。美しい文字を書く写字生や、服を仕立て美しい刺繍をする針子や、厨房で働く者達の中に、手や足が不自由な者、目が見えなかったり、耳の聞こえない者もいて、働いていた。声の出ないサイモンなど、何も珍しくなかった。


 その光景にサイモンは心底驚いた。ロバートとアレキサンダーは淡々と、彼らなりの理由を教えてくれた。

「私は歩くこともできますし、目も見え、耳も聞こえますが、あれほど美しい文字は書けませんし、刺繍など全くできません。皆必要ですから雇っています」

「ロバートも私も、忠実で有能なものが欲しいだけだ。私達の生まれる前に戦争は終わったが、戦争で手足を失った者は少なくない。有能な者は有能だ。それだけだ。国のために戦って手足を失ったとたん、無能者扱いするのは馬鹿げている。ライティーザの総騎士団長は、左膝から下が無いが、強いぞ」

 二人の考え方はわかったが、ライティーザの騎士の頂点に立つ総騎士団長を例に挙げるなど、極端だとサイモンは思った。

ー私には、そこまでの能力はありませんー

「いいえ。あなたには助かっています。私は書類の整理は嫌いですから」

ロバートはきっぱりと言い切った。

「そうだな。私も好まない」

アレキサンダーは苦笑していた。

 サイモンも思わず頷いてしまった。執務室から保管のために回されてくる資料を整理していて、何となく察していた。

「お前は正直だな」

 アレキサンダーもロバートも、サイモンを怒ったりしなかった。

「あなたには大変助かっています。司祭様のお申し出を受けてよかったと、心から思っています」

 ロバートはサイモンに笑顔で言ってくれた。嬉しかった。


 王太子宮に来てよかったのはサイモンのほうだ。最初あったときのロバートは、本当に怖かった。だが今、サイモンを一番気遣ってくれるのはロバートだ。そのロバートと、彼が仕えるアレキサンダーの役に立てていることが嬉しかった。

ーありがとうございます。そう言っていただけると、ほんとうに嬉しいー

 表情の少ないロバートを鉄仮面と言う人達のことはサイモンも知っている。ロバートは表情が無いわけではない。そんなことを言う人の見る目が無いだけだ。


 老司祭が亡くなったときも、ロバートは教えてくれた。アレキサンダーの視察に同行し、墓参りをするかと聞いてくれたが、サイモンは断った。

ー私の居場所はここにありますー

 老司祭は、居場所を見つけて、安心させてほしいと言った。老司祭はきっと、サイモンが、居場所できちんと務めを果たすこと望むだろう。出発の日、皺だらけの顔に微笑みを浮かべサイモンを見送ってくれた。

「今日がお前の門出だ」

 そう言ってくれた言葉は忘れない。村でサイモンの帰りを待っている人はいない。そんな村に帰るより、老司祭が望んだとおり、見つけた居場所で精いっぱい務めを果たしたい。いつか老いて世を去り、天の国で老司祭と再会するときに、誇りをもって会いたいのだ。

ー私は、自分の居場所を見つけました。司祭様にその報告もできましたー

 伝えたいこと全てが伝わったかわからなかったが、ロバートは頷いてくれた。


 近習の鑑と言われ優秀なロバートは、自他ともに厳しくあろうとしている。仕事に関して厳格だ。近習の筆頭であり、王太子宮の全てを束ねる彼の立場には、厳しさが必要なのだろう。でも本当は、とても優しい人だ。

 内緒にしたいらしい優しさが分かる様々な資料を、ロバートは他の資料と一緒にして、サイモンに託してしまう。そんな少し迂闊なところや、整理された資料が好きなのに、資料の整理が大嫌いという矛盾も含めて、サイモンはロバートを心の底から尊敬していた。

幕間のお話にお付き合いいただきありがとうございました。

この後も、本編でお付き合いいただけましたら幸いです


新年度になりました。環境が変わった方々、沢山いろいろなことがあると思います。きっとあなたの居場所はあります。あなたがあなたの居場所で輝けることを願いつつ、私も自分の居場所で頑張っていきます。そんな願いをこめて書きました。

 これからも、お付き合いいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編の方から来ました。作者様の最後の言葉含め優しい物語に目頭が熱くなりました。 本編の続きも大切に読ませていただきます。素敵な物語をありがとうございました!
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