表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
memory  作者: 柊 しゅう
23/23

23

    二十三


 退屈な大学の講義は時間が長く感じてしまい、終わるまでの時間を何回も確認してしまうほどだった。ノートを取りながらも、関係のないことばかり考えてしまっている。

 やっと、講義が終わり昼食を食べに食堂に行くと、いつもの待ち合わせの場所に座っている人たちがいた。

「遅い!」

「すいません。端っこの方の建物で抗議だったので」

「この大学何気に広いからな」

 内田先輩と久地先輩はすでに、自分の昼食を食べ始めていた。

「そういえば、あれはうまくいっているのか?」

「はい。さすがに、もう何か月も経ちましたし。元々渡辺先輩とは三年間もありましたから」

「有彩すごいよね。大学でもバレーで大活躍だって」

「この前テレビにも出てたじゃねえか」

「インタビュー受けてましたね」

渡辺先輩は、大学のバレーで全国レベルの活躍をしている。テレビでも取り上げられたりもしている。知り合いがテレビに出ていて活躍しているのを見ると、なんだか自分まで誇らしくなってしまう。知り合いに有名人がいるのを自慢したがる人がよくいるが、今ではその気持ちもよくわかる。

 持ってきたお弁当を広げながらそう答えると、俺のお弁当に内田先輩が箸を伸ばした。

「卵焼きいただき!」

 内田先輩は卵焼きを一口で食べた。

「ちょっと先輩、自分のがあるじゃないですか」

「このお弁当は別腹だよ」

「俺のですけど」

 諦めてお弁当を食べ始めると、俺のスマホの着信音が鳴った。

「もしもし」

「テルか?今日の夕方暇か?」

「一応大丈夫だけど」

「じゃあ、六時にいつもの居酒屋で」

 電話が終わってお弁当を見ると、卵焼きがまた一つ減っていた。

「今の歩君?」

 当然のごとく箸に卵焼きを持っている内田先輩が、俺にそう聞いてきた。

「そうですけど。先輩、言えばあげますからせめて一言言ってからにしてください」

「歩君、大学遠いのによく頑張ってるよね」

 完全に俺を無視して、内田先輩は話を続けた。

「わざわざ都心の大学行かなくてもいいのにな」

「自分がやりたいことには必要条件だって言ってましたし、本人がやりたいことならしょうがないですよ」

 その後も抗議のことや久地先輩の就活、進路のことについて話した俺たちは、昼休みギリギリまで食堂に居座っていた。

昼休みが終わると、内田先輩と久地先輩は講義があるからと急いで食堂を出ていった。午後の講義が最後の6時限目しかない俺は、暇をつぶしに図書館に向かった。


 今日の講義が全て終わると、すぐさま駅に向かった。電車に乗ると、車内は空いていて座ることができた。

 電車に揺られながらウトウトしていると、メールの着信音が鳴った。

【今日の晩御飯何がいい?】

【カレーがいい】

【わかった。帰りに自分の好きなルー買ってきて】

 晩御飯の話をしていると、おなかが鳴り始めた。電車が付くにはまだ時間があり、手持ちに軽食もないため、空腹感がより一層増してきた。

 駅に着くと、軽食を買うなどせずにすぐに待ち合わせの場所に向かった。

 居酒屋の前に着くと、そこにはまだ歩の姿はないようだった。すでにじぶんが少し遅刻しているため、おかしいと思い店内を見ると、一番奥の席に歩が座っているのが見えた。

「お待たせ。遅れてごめん」

「先に飲んでたからいいよ」

 歩はすでに顔が赤くなり始めている。俺も一杯のビールだけ注文した。

「で、なんの呼び出しだよこれ」

「いやな、沙織さんがたまには直接会えって」

「姉さん、元気にしてる?」

「仕事は大変そうだけどな。元気にはしてる」

「もう二年か?」

「二年と半年」

 歩は、今は姉さんと付き合い同棲もしている。大学のことで姉さんに色々お世話になったこともあるのと、実は昔から好きだったらしい。友達が姉さんと付き合っているのは少し不思議な感覚だが、歩なら安心して姉さんを任せられるし、姉さんも今回は長く付き合うことができている。

「そっちはどうなんだよ」

「どうって言われてもね」

 俺はビールを飲みながら、曖昧に答えた。

「実際、うまくいっているかは分かんないもんだよ」

「でも、幸せだろ?」

「まあな」

「なら、大丈夫そうだな」

 歩は焼き鳥をほおばり、残りのビールを一気に飲んだ。

「すいません!お会計お願いします!」

 歩に自分の分の料金を渡して先に外に出ると、外は寒く上着を着ないと風邪をひいてしまいそうなくらいだった。

「よし!じゃあ、帰るか」

 歩は少しふらふらしながら駅の方に向かった。それを改札まで見届けると、俺は自分の家に向かった。

 しかし、ここは二年前まで住んでいた町ではない。最近になってやっと見慣れてきた街並みの中を進んでいくと、一見のスーパーが見えてきた。

 そこで自分のお気に入りの辛口のカレールーを買った。スーパーのビニール袋片手に歩くと、息が白くなるのに気づいた。

「もうそんなに寒くなってきたのか」

 独り言をつぶやくと。俺は歩くスピードを少し上げた。

 数分すると、スマホの着信音が鳴った。画面を見ると、そこには姉さんと映っていた。

「もしもし」

「歩君もうそっち出た?」

「さっき出たけど。どうしたの?」

「メールの返信がないから、心配になって」

「多分。電車の中で寝てるんじゃない?」

 姉さんの過保護の対象は、今となっては歩に移ってしまっている。歩はそれをたまに注意しながらも、うまく付き合っている。

「そういえば、今年は父さん年末家にいるみたいだから、全員集まろうって母さん言ってたよ」

「わかった。じゃあ、今年もみんなで集まって食べに行ってからにしよう」

 毎年俺たちは、年末に集まって忘年会をしている。俺に歩に、久地先輩、内田先輩、渡辺先輩、姉さん、小林先生で集まっている。

 このメンバーは、俺と内田先輩と久地先輩以外はバラバラになってしまったけれど、関係はいまだに続いている。

「そういえば。今思い出したけど、姉さん」

「ん?」

「小林先生のこと使ってたでしょ?」

「あ、バレた?」

 小林先生は、実は姉さんの担任だった。だから、もしかしてと思って聞いてみたら案の定、俺が同じ高校に入るからと言って、特別目をかけてもらうようお願いしていたらしい。しかし、担任も授業も、小林先生が俺の担当をすることはなく、天文部に入ってやっと出会えたというわけだったらしい。さすがに、高校を卒業してからは、そんなことはしていないと言っていた。

 天文部の合宿の最終日に温泉に行ったとき、帰る前に電話していた相手は姉さんだったらしい。小林先生も俺たちの状況に感づいて、姉さんに報告をしていたらしい。その後からずっと俺のことについて、定期的に話していたということだった。

「やめろって言ったでしょ」

「やめるとは言ってないはず」

「んなバカな」

「気づかなかったなんて、まだまだね」

 姉さんには、まだまだ敵いそうにない。こんな姉を持ってしまったことを、早めに諦めるとしよう。

「ちなみに、今の大学じゃそんなことしてないよな?」

「してないよ。一応、一度説教されてからは新しく人を巻き込んだりはしてないから」

「初めからそうしてほしかった」

「あ、そろそろ切るね。バイバイ!」

 逃げやがった。でも、久しぶりに姉さんの声が聞けて良かった。これで喜んでるくらいだから、俺もまだシスコンかもしれないな。

 電話をしながら歩いていたから、いつの間にか家の近くまで着てきた。最後の曲がり角を曲がると、自分の住んでいるアパートが見えてきた。

 窓から室内の明かりが見えていて、中からテレビの音がする。

 階段を上がって二階の自分の部屋の前に着くと、中から鼻歌が聞こえた。

「ただいまー」

 ドアを開けると、食材のにおいがした。

「はいこれ。辛口のカレールー」

 買ってきたカレールーをテーブルに置くと、キッチンの方を向いた。

「おかえり」

 疲れた俺は、カレーが出来上がるまでソファに横になってテレビを見ていた。

 カレーはすぐに出来上がり、空腹だった俺は数分でそれを完食した。自分の皿を下げて洗い、またソファに横になった。

 部屋にはまだカレーのにおいが残っていた。テレビでは、最近人気のお笑い芸人がコントをしている。なんとなく気分じゃなく、チャンネルを変えてドラマを流し始める。

 疲れがたまっているのか、だんだんと瞼が落ちてきている。

高校の一年目のことを思い出していた。入ってすぐに部活を辞め、その後内田先輩と出会ってからは転々と物事は進み、天文部に入部していた。その後も何かと忙しく、部室にはほぼ毎日通って、その日来た人たちと駄弁っていた。

「すぐ横になると、太るよ」

「大丈夫だよ」

「そんなこと言って、太っても知らないからね」

 そう言って横になっている俺の上に座ると、俺の横腹をつねった。

「痛いって。わかったよ、起きるよ」

 起き上がると、ソファに二人でくっついて座った。左肩に頭一個分の重みがかかる。逆側の肩を手で抱き寄せると、顔の距離も近くなった。

「なあ」

「なに?」

「ありがとう。有彩」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ