麗かな明かり,朧げな記憶,ただ君の隣で……
あなたには大切な人はいますか?
泡の記憶……。
愛している
僕は君を愛している。
心の底から、……愛しているよ。
いつ君と出会ったのか、具体的に思い出そうとしても、なぜかいつも叶わない。
ただ覚えているのは、君は僕の友人の妹だったということ。
いったい君の名前が何だったのか、思い出そうとしても、なぜかいつも叶わない。
ただ覚えているのは、君の名前を呼ぶだけで、心が大きく揺れ動き、幸せを感じられたこと。
初めてこんなに人を好きになりました。
初めて幸せというものを感じました。
初めて孤独を埋められました。
僕はあなたが好きでした。
僕はもともとあまり他人に興味がわかない。
理由は、……恐らくだけと人に嫌われていた期間が長すぎたことだと思う。
人に嫌われた。
僕の周りには、常に誰も寄らなかった。
恐らく当時の僕が君と出会っても結ばれる事はなかっただろう。
僕が恋慕するだけの青春の1ページとして終わった筈だ。
それはもう、大層な嫌われっぷりだった。
なんていったって、学校のほぼ全員から嫌われた。
唯一仲の良いと思っていた友人からは「お前と一緒にいると仲が良いって思われる」と言われ距離を置かれたほどだ。
こんな事を親友だと思っていた人から直接言われた人なんて僕くらいじゃないかな?
まぁ、親友だと思ってたのは自分だけで、彼は親友どころか友人でもなく顔見知り以上の価値はなかったって事なんだろう。
こんなことは何度もあった。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も…。
だから、僕は他人に興味がわかない。
だから、僕は他人に興味をわかない。
でも、一人は寂しいんだよ。
少し自分の話をしようか。
興味ない?
うん、そうだと思うけど少しだけ……。
僕はまぁ正直、今はもう思い出したくもないくらい空気が読めなかった。
有り体に言えば自己中だったんだよね。
理由は多分、1人でそこそこ出来たから。
あくまでもそこそこ。
器用貧乏という言葉がピッタリ。
勉強だって躓く事はないし、運動だって初めてやるものでも困らない、面白い特技だってやってみればある程度できた。
1番になった事は一度もないけど。
というか表彰台に立ったこともないなぁ〜。
そりゃスタートダッシュがほんの少し、本当に少し先なだけで努力すればすぐに抜かれる。
当たり前。
だって僕は天才なんかじゃない。
頑張ったら秀才になれる、かもね?って位のもの。
自分よりできる人なんて数えるのも億劫だからこの辺で。
まぁ、そんな訳で人に嫌われた訳だ。
今でこそ人並みは空気読めるけど、やっぱりたまに致命的に間違える。本質は変わらない。
そんな欠点だらけの人なくせにして、なぜか相手に求める理想だけは高かった。
馬鹿とかではなく、愚かだよね。
僕はどれも一番じゃない。
僕の才能はそこまでじゃない。
あくまですごい人、秀才。
天才には絶対に勝てない。
凡人と天才の間には隔絶した壁があるんだよ。
努力なんてものじゃあっち側にはいけない。
僕は、あっちには行けない…………。
ただのひと。それが僕だ。
他人に興味がわかない僕は、本当の意味で人を好きになることがなかった。
別に連絡が帰ってこなくても何も感じないし、遊びに行ったら面倒だと思うし、彼女らの話題は話して楽しくもない。
1人が嫌いなのに、その性質は極めて孤独だった。
そもそもが嫌われて当たり前。
だから、そこに何の疑問も持たなかったんだ。
どうせ、いつまでも孤独なんだろうなって。
だから、人を好きになっても諦めて。
だから、当たり前にダメで。
だから、結局本当に好きになるのをやめていた。
君と出会った時のこと、いつ出会ったのかなんて思い出せない。
君にもう会えないのは苦しい。
君の名前を呼んだ時のこと、なんて呼んだかなんて思い出せない。
ただその響きが僕は好きだった。
君の顔を眺めた時のこと、君の笑顔がもう思い出せない。
この世の何よりも好きだったのに。
1つだけたしかに覚えていることがある。
僕と君と友人とその彼女の4人。
正直、なんであいつらが一緒だったんだろうな。君と2人で過ごした記憶の方が覚えていたいのに。
そもそも、なんであそこにいたんだろうか?
そんなことは考えても詮無い事か。
僕ら4人以外誰もいない、大学の空き教室で何か楽しく話していた。
ただの日常の1ページ。
僕の幸せの1ページ。
柔らかな光が差し込む中、少し目を細めると不思議な建物が視界に入る。
ここからあの建物が見えるんだな。
君の長い髪をすきながら、
僕は言った。
あそこにある建物なんか面白いねって。
君は言った。
ここからじゃ見えないって。
君は僕の方に倒れてきて、僕は座りながら左手で君を支えた。
まぁ、正直に重かったよ。
こんな事直接言ったら叩かれるけど。女の人も人間だからね。結構腕に来るんだ。
でも、この重さが幸せの重さだった。
2人で笑いあったよね。
あの建物面白いって。
目の前の友人達も、そのイチャつきっぷりに呆れていた。
でも僕は嬉しかった。
君と出会えて、何より嬉しかった。
君と付き合えて、本当に嬉しかった。
大学で公然とイチャつく。
まあ、手を繋いだりハグをしたりするくらいだけどね。
これが僕の彼女の最後の記憶。
今となっては、彼女に対する最初の記憶。
名前も顔も、匂いも声も、何もかもが薄れていく。
僕の中から、君がいたという記憶を除いて、消えていく。
それでも。
それでも僕は、君を愛しています。
君とまた会いたい。
「〇〇!!!おい待て!」
彼女の手を掴む、離さないように。
朝日が綺麗に見えると笑い合った橋。
君は覚えてるだろうか?
僕はもう朧げだ。
「なんだ?何を言ってる!聞こえない!」
口が動いてる。
何かを言ってる!
なのに!それが何なのか、僕には全く聞こえない!
視界が滲む。
このままだとダメだと、深いところが叫ぶ。
彼女は寂しそうに笑った。
「おい、何を笑ってる?」
俺は掴んでいた手を慌てて離した。
「すみません、なぜか悲しそうに見えたので、つい」
なんで手を離した?
いや、なんで手を離したくないんだ?
ダメだ、彼女を引き止めないと!
なんでかわからないけど行かせたくない!
何故かこの人のことを引き止めたくて仕方がない。
「あっそうだ、これ!使いませんか?今日寒いですし。赤色のマフラー、すごく似合うと思うんですよね!……なんででだろう?そんな気がする、だけなのかもしれないけど」
この人の首にマフラーを巻く。
何なんだろう、すごく落ち着く。
うん、似合ってるな。
すごく、似合ってる、な。
彼女の方が動いた。
声が出せないのかな?
なんか寂しい。
「ここから見る朝日は相変わらず綺麗だな。まっ、そのぶん眩しいけど……。ふぅ〜寒ぃ」
俺はもたれかかっていた橋から体を話すと、帰路についた。
その時すれ違った赤いマフラーの女性の事が妙に頭から離れない。
ありがとうございます