第十五話(エピローグ) シアの決意
コボルトを撃退したシアはルーテルに連れられ、さっそく冒険者ギルドにて冒険者登録を完了させた。
そして先ほどのルーテルの仮説を確かめるべく、ゴブリン討伐の依頼を受けて街外れの草原まで赴く。
草原に着くと、ルーテルは周囲を警戒したように見渡して魔物の気配がない事をたしかめシアを見た。
「いいかい、シアくん。私の考えでは、『聖剣』スキルとは本物の聖剣の様に魔物に対して絶大な力を持っている物だと思うんだ。つまり、本物の聖剣に斬られた魔物が滅されるように、君に触れた魔物にも同じことが起こるんじゃないかと思うんだ」
「そ、それは……いくら何でも考えすぎじゃ……そんなスキルなら、魔物に対して無敵じゃないですか」
ルーテルの言葉に戸惑いながら疑問を呈すると、彼女は何とも言えない顔で頷いた。
「ああ、その可能性が高い。だから実証しよう」
「……はい」
とにかく、師匠であるルーテルがそういうのだ。シアは身構えて、ゴブリンを探索する。
すると、こちらにやってくるゴブリンが三体見えた。
三体とも木の棒や棍棒などの武器を構えており、シアに気付くと一気に近づいてくる。
「よ、よし。こいっ!」
いつもならばシアも木の棒を抜いて応戦するところだが、自分のスキルを試すためにあえて抜かない。
こちらに木の棒を振り下ろしてきたゴブリンの一撃をそのまま受け入れた。
「え、あっ! シアくんっ! 避けなさいっ!」
「へっ? あだっ!」
ルーテルの鋭い声に慌てて避けるも、ゴブリンの木の棒が頭を掠めてうずくまる。
(い、痛い……やっぱり魔物の攻撃も喰らうのか?)
「そこでじっとしていなさい」
三体のゴブリンを相手取り、ルーテルはあっさりと倒してしまう。そして呆れたようにシアを見た。
「シアくん。君の力は相手に触れないと意味ないんだ。つまり武器が持った魔物が相手なら、まずは武器を弾き飛ばして直接触らないと……街道で倒したコボルトのようにね」
「な、なるほど……」
頭を擦りながら起き上がると、シアは再び気合を入れ直した。そして今度は用心深く、木の棒を手に持つ。
「よ、よし……今度こそ」
再びゴブリンを探していると、前方から再びゴブリンが現れた。
今度は都合の良いことに、武器を持っていない。
「シアくん。あれならちょうどいいかもしれない」
「はいっ」
シアも武器をしまい、ゴブリンに忍び足で近づいた。
『ググっ?』
しかし足音に気付いたのか、ゴブリンが振り向いてシアの姿を視界に入れる。
そして拳を握ると、シア目掛けて殴りつけてきた。
「う、わぁっ?」
咄嗟に腕で顔を庇ったシアだが、やはりシアの身体に触れた瞬間、ゴブリンの拳が燃え上がる。
『グフゥっ? グググゥっ!』
燃える痛みに慌てたように、地面に腕を擦り付け鎮火を測るゴブリン。
しかし、青白い炎は消えることなく、ゴブリンの身体を容赦なく燃やし続けた。
『グゥゥゥっ!』
やがて全身が火に包まれ絶叫を上げるゴブリン。最後にはこれまでと同じように、灰のみが残されたのだった。
「これで、確定だね」
その様子を細めて見守っていたルーテルが、納得したように頷いた。
シアとしても、こうなってしまっては理解するしかない。
「そうか……そうだったのか。このスキルの意味――俺自身が『聖剣』になるってことだったのかっ!」
ようやく自分のスキルが分かり、さらに意味のないものと思っていた『聖剣』スキルが魔物に対して絶大なる威力を発揮することに気付いて大喜びするシア。
そんな彼にルーテルが苦笑しながら近づいてくる。
「しかし、この能力は冒険者には向いていないかもしれないね」
「えっ? 何故ですか?」
これほど魔物を相手取るのに優れた力はないと思うのだが、ルーテルはどうやら違う考えらしい。
だがシアも、ルーテルの続く言葉で納得した。
「なにせ、魔物を灰にしたら討伐証明も素材の換金もできないからね……」
「……あっ」
たしかにその通りだ。
これではゴブリンを討伐したことを証明する部位をギルドに持って行けないし、倒した魔物の高価な素材を手に入れることもできない。
「ど、どうすれば……俺はやっぱり、冒険者の才能がないんでしょうか?」
項垂れるシアの方を、ルーテルが優しく叩いた。
「まぁ、そのスキルは奥の手にして、一緒に剣を鍛えよう。大丈夫。君の剣技は一流になり得るさ。その剣技だけでも十分冒険者としてやっていけるよ」
「る、ルーテルさんっ!」
力強く言い切ってくれたルーテルに嬉しくなって、シアは彼女を見上げた。この人と出会えて、弟子にしてもらえて本当に良かったと思った。
「それじゃあ、シアくん」
「まずはこの草原にいるゴブリンを、三十体倒してみようか。もちろん、スキルは使わないようにね」
「え……」
「さぁ、早く始めないと夕食に間に合わないよ」
「う、うわぁっ!」
さっそく弟子になったことを後悔しかけたが、ここで躓いてはどのみち先はない。
(いいさ、やってやるっ! 絶対に、ルーテルさんの修行に音を上げないぞっ!)
こうしてシアは、ルーテルと共に冒険者としての一歩を踏み出した。
その後、メキメキと腕を上げた剣技と、魔物に対する効果絶大なスキルのおかげで名声を獲得していくのだが、今はまだ――先のお話である。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
一応、あらすじは回収できたので、ここで完結とさせてください。
試験的にチャレンジしてみましたが、やはり純粋な男主人公は難しいですね……
(主にモチベーション的な意味で)。
意味なしTSという言葉を聞きますが、やはり意味はあると思います。
(主にモチベーション的な意味で)。
今回は宣伝と試験を兼ねた作品でしたが、
次回は素直に自分が好きなものを書いていくことにします。
お読みいただきありがとうございました。