第十四話 スキル『聖剣』
シアがルーテルに弟子入りしてから五日。
その間、彼女に付き添い修行をしたシアは、正式にルーテルに弟子入りを認めて貰えたのだった。
「正直、君に教えられることはあんまりないとは思うけどね……」
苦笑しながらそんな謙遜をするルーテルに付き添い、シアは生まれ育った村を離れることとなった。
「達者でな」
「兄貴、怪我すんなよ」
「シア兄ちゃん、頑張れよっ!」
「笑わないから、いつでも帰って来いよっ!」
村人たちからそんな声援を受け、シアは大きく頷き手を振った。
「みんな、じゃあなっ!」
父親は姿を見せなかったが、別に構わない。シアが村から出て行くことを反対も賛成もしなかったが、食い扶持が減ってせいせいしている可能性もあった。
だからこそ、次返ってくるときには高名な冒険者となり、たくさん金を持って帰って驚かせてやるつもりだった。
「さてシアくん。この辺りの街道には魔物が出るんだ。気を付けて進もう」
「あ、はいっ!」
村からでたしばらく歩いたシアは、ルーテルからそう注意されて腰元の木の棒を確認する。
その時、繁みからゴブリンよりも小さな二足歩行の魔物が飛び出してきた。
「おや、コボルトだね……シアくん、倒してごらん」
「えっ?」
シアは慌てて木の棒を抜いて構えると、コボルトも同じように木の棒を構えてシアを睨みつけてくる。
コボルトは弱い魔物としてしられているが、シアはこれまでまともに戦ったことはない。木の棒を使って勝てるかは未知数だ。
(け、けど……やらなきゃやられるんだ……頑張らないとっ!)
シアはコボルトに近づくと、ルーテルに教えられたように掛け声は出さず、呼気だけを吐き出し木の棒を振り下ろす。
『ぎぃっ!』
シアの鋭い振り下ろしに頭を強かに打たれたコボルトは、叫び声をあげて逃げ出した。どうやら仕留めきれなかったようだ。
素早く茂みに隠れてしまう。
「あっ! 待てっ!」
シアが追いかけようとすると、その茂みから再びコボルトが現れた。
それも今度は十体入る。どうやら群れが近くに潜んでいたらしい。
「うげ……多い」
「さすがに、この数は一人じゃ早いかな?」
シアの助太刀をするためか、ルーテルが自身の剣を抜いた。
「シアくん。私も援護はするけど、できるだけ自分の力で倒してごらん」
「う、は、はい」
この数を相手にするのは不安だが、ルーテルが手伝ってくれるのなら何とかなるやもしれない。シアは再び気合を入れた。
「うらぁっ!」
迫って来た一体のコボルトに向けて木の棒を振ると、そのコボルトが持っていた木の棒にこちらの棒が衝突。
「あっ――」
すると力が入り過ぎていたのか、シアの木の棒はコボルトが持っていた木の棒と遠くへ吹っ飛んで行ってしまった。
「や、やばっ!」
『ギギュアっ!』
チャンスとばかりに、シアに襲い掛かってくる無手となったコボルト。
「し、シアくんっ!」
ルーテルが慌てて駆け寄ってくるが間に合わない。
コボルトの拳がシアの顔を捉え――。
『ギャァァっ!!』
絶叫を上げてコボルトが燃え上がった。
「……へっ?」
「なにっ?」
呆気にとられるシアと呆然とするルーテル。
そんな二人を他所にコボルトは燃え上がったままじたばたともがき、やがて燃え尽き灰となってしまった。
『ギギィ』
『ギギ、ギギギ……』
その様子を目の当たりにした残りのコボルトたちは、本能的に恐怖を覚えたらしい。少し仲間同士で顔を見合わせ、逃げるように繁みへと飛び込んでいった。
「あれ……一体何が?」
「コボルトが燃え上がった……これは、スライムの時と同じか? 何故……」
ポカンとするシアとは裏腹に、いち早く驚きから立ち直ったルーテルが考え込む。そして確認を取るようにシアへ視線を向けてきた。
「シアくん。今までこういった経験は他にもないかい?」
「えっ? あ……この前のスライムの時と――それと山で『黒獅子』に出会った時に――」
「『黒獅子』に出会った? 村の山で、そんな魔物が出たのかい?」
さすがに動揺を隠し切れないルーテルの顔に躊躇いながらも、シアは小さく頷いた。
「は、はい。人間よりもずっと大きな黒い猫みたいな魔物だったのでそうだと……ただ、その魔物も、俺に触れたら燃え上がってしまったんです。こんなふうに……」
自分でも突拍子のないことを言っている自覚はあるので、シアの声はどんどん尻すぼみになっていく。こんな話、信じてもらえないかもしれない。笑われるかもしれない。
「……シアくん。君は自分のスキルがわかるかい?」
しかしルーテルは一切笑うことなく、真剣な顔でシアに視線を向けてきた。
「えっと……俺のスキルは『聖剣』ってスキルなんですけど。でもこれ、別に意味がないスキルみたいで……別に持ってる剣が聖剣とかになるわけじゃないですし」
「『聖剣』? 『剣聖』ではなく『聖剣』……ふむ。聞いたことのないスキルだけれど、意味のない『スキル』があるなんて話も聞いたことはない。なら、君に触れた魔物が燃え上がるのは、やはりその『聖剣』なるスキルのせいだと考えるべきだな」
「えっ?」
「つまりそのスキル……君自身が『聖剣』になるってことじゃないか?」