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第十一話 シアの願い



 役目を終えたゴブリン討伐隊の一行は、村に戻り村長の屋敷へと招かれていた。質素ながらも労いの宴が開かれることになったのだ。


「いやぁ、本当に助かった。感謝するぞ、ルーテル」

「いえ……村の方々が協力して下さったので」


 立食形式で食事をしていたルーテルは、村長に声を掛けられやんわりと首を横に振る。近くにいたシアは、普段では食べられないような肉料理に舌鼓を打ちつつ、何気なくその様子を観察していた。


「しかし、まさかゴブリンのみならずスライムまで出るとは……それも通常の種ではない特殊な個体だったとか。よくぞ倒してくれたな。さすがは若くしてB級冒険者になっただけはあるっ!」

「はぁ……けれどあのスライム、少し妙だったような――」


 手放しで称賛する村長に対し、ルーテルはどことなく浮かない顔で考えるように俯いた。


「妙? うーむ、変異種だったのだろう? それならば無論、通常のスライムとは異なる点があるのは道理だろう」

「そうなのですが、死に方が少し気になったものですから……」

「なんと? では、死んではいないかもしれないということか?」


 自信がなさそうに話すルーテルに目を見張り、村長が慌てたように問いかける。現れた変異種のスライムが厄介な魔物であったことは聞いているのだろう。再び出現されてはたまらないと言わんばかりの反応だ。


「いえ、間違いなくスライムは死んだはずです。ただ……いや、おそらくは私の考えすぎでしょうね。忘れて下さい」

「うむ……まぁ、お前がそういうのであれば私も気にせんようにするが……何かわかったことがあれば教えてくれ」

「はい」


 ルーテルの言葉を気にしつつも、結局はスライムが倒されたことで「良し」としたようである。村長は、村の大人たちがいる場所へと酒瓶をもって去って行く。


 その背中をシアが見送ってから再びルーテルがいる場所へと視線を戻せば、ちょうどこちらへ顔を向けていた彼女と目が合った。

 

 慌てて視線を逸らしてから気になってゆっくりと戻せば、彼女はこちらを見たまま微笑を浮かべている。そして一つ頷くと、当然のように近づいてきた。


「シアくん、少しお話良いかな?」

「え、あ……はい」


 シアの傍に来たルーテルはそう切り出し、シアを人気のない建物の隅へと誘導する。


「あの、ルーテルさん?」


 美人に誘われて二人きりとなったこのシチュエーションにどきまぎしながらシアが呼び掛けると、彼女はにっこりと笑った。


「まずは、改めてお礼を。さっきはありがとう、シアくん。おかげでスライムに食べられずにすんだ」

「へ? え、いや、あの……へへへ」


 面と向かって誰かに感謝されたことなどあまりないシアは、照れ臭くなって頭の後ろを掻く。


「べ、別に大したことじゃないですよ。それに、あのスライムに食べられたって、別に溶かされたりしませんでしたし……中で暴れたら吐き出されましたよ?」

「そう、みたいだね。けど、本来ならそんなはずはないと思うんだ。実際、君もゴブリンがあっと言う間に溶かされたのは見たはずだ」

「はぁ」


 たしかにあの光景はかなり衝撃的であったため、しばらくはシアの脳裏に焼き付いて消えないだろう。異形のスライムによって、わずか数秒で骨の身にされてしまったゴブリンの最期は……。


「それに、スライムの死に方も気になるんだ。あんなに呆気なく燃えるなんて……」

「それはルーテルさんの火の魔法がすごかったからなんじゃ?」

「いや……私はあまり火の魔法は得意じゃないんだ。通常のスライムは火に弱いので使用したが、一度で倒せるとは思わなかった。それに君も見たかい? あのスライムは青白い炎によって焼かれた」

「え? ええ……」


 ルーテルが放った火は赤色をしていた。しかし、実際にスライムを燃え上がらせたのは青白い炎であった。それはシアも目撃している。


「あの、単純にスライムを燃やしたら炎が青白くなっただけなんじゃ……」

「うーん、そうなのかな? しかしあれは――」


 首を傾げながら意見を述べたシアに、それでもルーテルは納得いかなさそうに腕を組んで思案気な顔をする。

 だが、しばらく考えても答えは出なかったのか、切り替えるように再び笑みを浮かべた。


「ああ、すまない。こんな話がしたかったわけじゃないんだ。スライムの死に方がどうであれ、君に庇ってもらったのは事実だ。あの時も言ったけれど、何か私にお礼をさせて欲しい」

「お礼? え、いいんですか?」

「もちろん。まぁ、私にできる事であれば、ね。さぁ、なんでも言ってみなよ」

「な、なんでも……」


(そ、そんな、どうしよう――)


 突然のルーテルの申し出に、シアは生唾を飲み込んだ。


 そのような提案をしてきたルーテルは、とても魅力的な娘だ。彼女に「なんでもしてあげる」なんて言われたら、健全な男子であるシアとしては、下心の一つや二つは湧いてくると言うものである。


 しかし、シアにだって理性もあれば分別だってある。


 ルーテルはシアがそのような低俗なご褒美(・・・)を欲しがらないと信頼して「なんでも」なんて言っているのだ。

 彼女の信頼を裏切るわけにはいかない。

 

 そもそもの話、シアには何よりも叶えたい願いがあった。彼女が協力してくれるのであれば、その夢に手が届くかもしれない。それならば、断られるのを覚悟して言ってみてもいいだろう。


「……あの、本当に何でもいいんですか?」

「うん。さぁ、なにが欲しいんだい?」

「じゃあ……その――お願いです。俺をルーテルさんの弟子にして下さい。一緒に、冒険へ連れて行ってくださいっ!」

「……え?」


 さすがにこの願いは予想だにしていなかったらしい。深々と頭を下げるシアに、ルーテルはぎこちなく首を傾げるのであった。



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