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第一話 剣聖を目指す貧弱少年


「ていっ!」


 大きく振りかぶり、そして振り下ろした木の棒は、相手へかすることなく地面へと叩きつけられた。 


「はっ」

「あだっ!」


 そして隙だらけのこちらへ相手の木の棒が横薙ぎに振るわれ、脇腹に直撃。あまりの激痛に思わず屈みこんで悶絶する。

 

 少年シアがこうして地面をのた打ち回るのは今日だけで十回を超える。この世に生をけて明日で十五年になるが、通算すれば一体どれだけの数になるだろう。少なくともシアは、一千回以上はこのような無様を晒しているはずだ。


「……おい、兄貴。これで終わろうぜ」

「う、うるさいっ! お、俺はまだ……」


 脇腹を押さえて歯を食い縛るシアに、対戦相手――弟のヨシュアは面倒くさそうに首を横に振った。

 そして気だるげに近寄ると、シアをひょいっと抱えて彼の腹を自分の肩に乗せてしまう。


「お、おまっ! おろせっ! おろせよっ!」


 まるで山賊に攫われる町娘のような有り様に、抗議の声を上げてじたばたともがく。しかし背中に回されたヨシュアの腕はまったく動かず、そしてシアを担いだまま、すたすたと移動を始めてしまった。


「もうすぐ暗くなるし、さっさと帰って家のことをしないとな。父ちゃんにどやされちまう」

「そ、それは分かるっ! けど、もう少しだけ修行を――」

「ああ、はいはい。また明日な。ったく、どんだけやっても兄貴じゃ俺には勝てねぇーのにな」

「そんなの分からないだろうがっ!」


 ヨシュアの背中越しに怒鳴って見せるも、弟に堪えた様子はない。

 ヨシュアの方がシアよりもずっと背が高く体格もいいので、きっとシアのことなど兄だとも思っていないに違いない。だからこそ、この様な暴挙を行えるのだ。シアはムキになってそう考えた。


「くそっ! 今に見てろよ? 明日、俺のスキルが分かったら、お前や村の奴らなんてけちょんけちょんにしてやるからなっ?」

「『けちょんけちょん』ねぇ。まぁ、頑張ってくれ」


 小馬鹿にしたように投げやりな応援をするヨシュア。

 シアは一層怒りを募らせるも、どうすることもできずに拳を握り締めた。


 いつも、シアはこうだった。


 十四の男にしては背が低く、女みたいなシアなんて名前と顔で村の奴らにはさんざん揶揄からかわれてきた。

 頑張って剣の修行をしてもちっとも上達は見られず、筋肉だって満足につかない。

 唯一の例外は走り込みを何年も続けてきたおかげで体力がついたことくらいだ。けれどそれだって、勝負事で持久戦に持ち込めないなら意味はない。彼は誰と戦っても、粘ることもできずあっさりと負けてしまう。

 時折、村の外れに魔物が現れたって討伐隊に入れてもらえず、いつだって村で留守番だ。年下の少年たちだって参加させてもらえるというのに、シアにはいつまでも声がかからなかった。未だにゴブリンなどのポピュラーな弱い魔物さえ、その姿を見たことすらない。


 本当に駄目な奴で、自分がどうしようもなく情けなかった。


(……けれどそんな俺も、明日になれば変われるのかもしれない)


 この村には十五になると呪い師に、自分が持つスキルを鑑定してもらえる習わしがある。神からの祝福とされるスキルは、誰にでもあるわけではない。むしろ持っていない者の方が多いとされる。

 それでもシアがもし有能なスキルを持っていたら――憧れの剣聖に至ることができる『剣聖』スキルを持っていたら――きっとシアは変われる。 

 馬鹿にしていた奴らを見返し、誰からも尊敬される戦士になることができるはずだ。


 彼はそれだけを楽しみに、それだけに賭けて十五までこの村で生きてきたのだ。


(明日だ。明日、俺は生まれ変わるんだっ!)


 ヨシュアの肩に担がれたまま、シアは明日へと希望を託したのだった。



――仮に『剣聖』スキルなど所持していれば、シアは現時点でこの村の誰よりも剣が上達していたはずだ。むろん、このような扱いは受けてはいまい。シアはそのことを分かっていながら、それでも気付かないふりをした。





執筆の幅を広げるため、普段書かないようなお話に挑戦してみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] すいません、山羊座の黄金聖闘士シュラっぽいかな、と思いまして。
[一言] 山羊っぽい金ピカの鎧の人でしょうか。
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