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エピローグ

「はぁぁぁ、今日も見事に一枚も売れなかったな・・・」


僕はいつもと同じ日常に戻った。いつもの大通りで僕は僕の絵を広げている。そして相変わらず僕の絵は売れない。唯一変わった事と言えばお腹にソノラがしがみ付いている、ということぐらいだ。彼女がまた目を覚ます時が来るのだろうか。


「今日はこんなもんかな」


僕は片付けの準備を始めた。退院後、僕はまた絵を描き始めた。事件や入院が原因で何日か絵を描くことが出来なかったけど、あの事件を経験する前よりは筆は進んでいるような気がする。


「絵が売れる売れないは兎も角、色々経験するのは大切だな」


そんなことをぼんやり考えていると後ろから声が聞こえた。


「アルス殿」


後ろを振り向いたら見覚えのある大柄な男が立っていた。


「東郷さん!?なんでここに?」


思わぬ来客に僕はドギマギしてしまった。


「たまたま近くを通っていたらアルス殿がいたのでね。絵を拝見してもいいかな?」

「はっはい!」


声が裏返ってしまった。東郷さんは僕の絵をじっくり見つめている。まるで大切に一枚一枚吟味してくれているように見えた。数分後、東郷さんは一枚の絵を取ってこう言った。


「うむ、この絵を頂こう。幾らかな?」

「えっいや東郷さんにお金を払ってもらうなんて。そっそうだ!この前の事件の医療費や入院費、そして大してお役に立てなかったのに事件の貢献費まで払って下さって・・・僕の絵でよろしければ差し上げます」

「いや、創作物をタダでもらうなどもってのほか。それに見合う対価は払わなければならない」


まさかの出来事に動揺してしまった。僕の絵を欲しいと言ってくれるなんて・・・それも東郷さんが。でも、何かが違うような。


「・・・わかりました。ではその絵を預かってもらえないでしょうか?」


東郷さんはそれを聞いてキョトンとしている。


「預かるとは?」

「考えたんですけど・・・東郷さんが選んでくれたその絵に僕は値段がつけられないんです。ここで自分の作品を売ってた奴が何言ってるんだって話ですよね。でも・・・もしその絵に納得した価値を付けられるようになったら、東郷さんにお伝えします」


僕は何を言っているんだろう。絵描きの卵がい一丁前に。でも、東郷さんが選んでくれた絵はあの事件後、僕が描いた絵の中で一番気に入っている絵なんだ。それを見つけ出してくれただけで僕の心は一杯だった。それを聞いて東郷さんは少し困惑したようだった。しかし一通り考えを巡らせたのか納得してくれたようだ。


「了解した。私はこの絵を有難く預かろう。君がいつかこの絵の価値を私に伝えてくれるのを待っているよ」

「はい」

「それと、時間が許すのなら君を我が機関の構成員として雇いたいのだが。勿論君の絵を描く時間の邪魔はしない。どうだろうか?」

「えっ?」


僕が機関に!?東郷さんの顔を見るととても冗談には思えなかった。


「でも、僕あの事件でかなり足手まといになってしまったし・・・これといった特技もないですよ?」

「あぁ、わかっている」

「ですよねー」


本当のことなんだけど改めて言われるとちょっとショックだな。


「勿論無理な頼みごとをするつもりはない。実際に今は人員が不足していて猫の手も借りたいぐらいなのだ」

「そうですか」

「それと・・・」


東郷さんの目は真剣だった。


「君の右腕とその少女について私達と一緒にいれば何かわかるかもしれない」

「そうなんですか?」

「あぁ。確かなことは言えないが」

「彼女に関してはどうにかして欲しいけど・・・シャワーを浴びる時とか気まずいし・・・でもこの腕は別にこのままでもいいんです。寧ろ・・・」

「寧ろ?」

「・・・僕のこの右腕って一体何なんだろうなって。好奇心です。たまにふと考えるんですけど、まぁ分かる訳ないっていうか。両親に聞いても最初からあったから分からないって言われていて。それで差別されたとか虐げられたこととかなかったので殆どこの腕に関して真剣に考えずにここまで来たんです」


東郷さんは真剣に僕の話を聞いてくれている。


「だからこの腕について知るたいいチャンスなのかなって思いました」

「ならば」

「はい。宜しくお願いします」

「それは良かった」

「でも僕コーヒーショップでも働いているんですけど・・・それでも大丈夫ですか?店長にはこの街に来てからずっとお世話になっているので、恩返しが出来るまではやめたくないんです」

「あぁ勿論だ。君は君のしたいことをすればいい。時々私たちの手伝いをしてもらえると助かる」


東郷さんは深々と頭をさげる。


「そんな・・・僕の方が色々お世話になったのに。頭を上げてください!」


東郷さんは頭を上げた。表情は真剣そのものだった。僕はその顔を見てソノラと自分の右腕と向き合う覚悟を決めた。


「東郷さん、改めてよろしくお願いします」

「あぁ宜しく頼む、環アルス殿」


東郷さんは大きな右手を僕の前に出した。僕はその三分の一ぐらいしかない自分の右手で東郷さんの差し出された手を握った。その時腹部が少し暖かくなった。しかしそれは僕の気のせいかもしれない。

拙い小説ですが読んでいただき誠にありがとうございます。続編ものちに掲載したいと思っています。どうか宜しくお願い致します。

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