護衛生活
護衛生活が始まった。東郷さん曰く、
「来週の土曜日までは護衛をつけさせてもらう。不自由なこともあるかもしれないが承知してくれるとありがたい」
東郷さんは申し訳なさそうにそう言った。
「またこの宇宙人の件だが、明後日別件で陛下との謁見がある。その時に君達も来てくれ給え」
「・・・王様との謁見?僕みたいな一般人がいいんですか?」
「陛下は分け隔てないお方だ。それにこの宇宙人は君から離れそうにない。理由については私から陛下に話しておくので問題ない」
「ぼっ僕何か正装とかしてきた方がいいですか?でもいい服なんてうちには・・・」
「大丈夫よ。そんなこと気にするような方じゃないわ」
エルザさんが僕の背中バシバシ叩きながらそう言った。
「では、明後日の午後三時にオフィスで」
「わかりました」
「久世くん、アルスくんを頼むよ」
「了解です」
そして僕らはアーカイブのオフィスを後にした。帰り道、黒髪美少女とお腹に子供のような宇宙人が張り付いている一般人が並んでいるのが異様だったのか、何人もの人に白い目で見られていたような気がする。久世さんは全く気にしていないようだったが、やはり僕を護衛することが不安なのか少し神妙な顔をしている。相変わらず無表情だが、段々久世さんの表情の機微がわかってきた気がする。
「すまない、君の安全確保の為暫く私の実家に宿泊してもらう」
「えっ、久世さんのお家に?」
僕が外出するときだけの護衛かと思っていたので、まさかのお泊まり展開に僕は少し戸惑っていた。
「客間は幾つかある。遠慮はしなくて大丈夫だ」
それを聞いて久世さんの家は広いんだろうと想像できた。
「あっ、でも僕朝起きたら絵を描きたくて。家に一回道具を取りに帰ってもいいですか?」
「わかった」
僕たちは一度僕の家に戻った。かなり散らかっていたので久世さんには外で待っていてもらった。それに女の子を男の部屋に招き入れるなんて・・・久世さんはそんな意識していないだろうけど・・・。悲しくなったので僕はそのことについて考えるのをやめた。
僕は絵の道具と最低限の日用品をリュックに詰めた。服はこのぐらいでいいか。スケッチが主になるだろうけど本描き用の紙も何枚か持っていこう。もしキャンバスが必要になったら買いに行けばいい。僕は背中に絵を描く為の道具が入った不恰好なリュックを背負い、お腹に宇宙人を抱えながら部屋を後にした。
「お待たせしました」
「大丈夫そうか?」
「はい!」
そして僕たちは久世さんの家に向かった。横で歩いている久世さんは先ほどより体に力が入っているようだった。学業もあるのに僕の護衛なんて・・・僕は勇気を持って先ほどから思っていたことを久世さんに話してみた。
「あの、すみません。久世さんも忙しいのに僕の護衛を押し付けられてしまって」
「・・・これも仕事だ、君が気にする必要はない」
「でも、なんだか気が張り詰めているような・・・きっ気のせいだったら済みません!!!」
それを聞いて久世さんはキョトンとした顔をしていた。僕・・・かなり失礼なことを言ってしまったのかもしれない・・・そう思っていると久世さんは口を開いた。
「実は私は・・・以前任された護衛任務に失敗したことがあって・・・それ以来なんだ護衛の任務は。だから少し緊張している・・・だが今回は前回のようにはしない」
久世さん自分を奮い立たせているようだった。
「・・・もし失礼でなかったら、その以前の護衛任務の話、聞いてもいいですか?話すのが億劫だったらいいんです・・・」
僕は思い切ってそのことについて聞いてみた。僕が話を聞くことでどうにかなることではないけど、その任務の失敗が久世さんの心に突っかかっているのなら護衛されている身として知っておくのも良いと思った。
「あぁ、すまない気を遣わせてしまって。そうだな・・・あぁ、君に話そう」
「ありがとうございます」
久世さんはふぅと一回ため息をついてその事件について話始めた。
「二年前、ある子供が彫刻のコンペで最優秀賞を受賞したんだ」
「・・・それって、最年少で受賞したジャミール・ミラって子ですか?新聞で読んだ気が・・・」
ジャミール・ミラ。二年前、若干八歳でこの都市で一番大きい彫刻のコンテストで最優秀賞を勝ち取った神童だ。その当時、メディアではかなりの賑わいを見せていたが最近では名前をあまり聞かない。
「そうだ、まぁ当時はかなり騒がれていたからな。当時八歳で急に有名人になってしまった彼女に親が護衛をつけたいと以来が来てな。その時ジャミールの護衛を担当したのが私だった」
「その時に何かあったんですね」
「あぁ・・・」
久世さんは橙色に染まった空を見つめてその時のことについて語った。




