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黒い森 一
もしこの世界が僕たちの見開いた四つの眼にとってたった一つの黒い森となる時に僕は君を見付けるだろう。
黒い森
気が付いたら私はそこにいた。
多分小雨が降っているのだろう。
雨粒が触れる感覚はなかった。
しかし地面は湿っている。
そんなことをぼんやり考えていると目の前に大きな黒い影が現れた。
その影は私に話しかける。
「お前は生きておるのか?」
低い声の黒い影が私にそう尋ねる。
声色から察するにこの黒い影は人間の男のようだ。
「おいどうなんだ?生きているのか返事をしろ」
男は再び私に尋ねた。
生きている?
そんなこと私には皆目わからなかった。
何故ここにいるのかもわからない。
ただこの体が私の意志で少しばかり動くことはなんとなくわかっていた。
私はその意志を示そうと少し口を動かす。
それで納得したのか、男は私を担ぎ上げて何処かに連れて行こうとした。
「落としたりはしないさ」
随分と荒い歩き方だった。
柔らかい雨の降る黒い森
私はその時の出来事を今でも覚えている。
なぜならその日に私が生まれたのだ。