7.真剣な眼差し
あらすじ
愛ちゃん家にきたよ!
「はーーー、ムカつくーっ!」
愛菜は、自室で一人悪態づいていた。
キーッと叫びながら布団にうつ伏せでボフボフと暴れまわる。いつものようにハルを起こしに行ったあの日。すぐに出てくるはずのハルが、その日は出てこなかった。
ハルは決して寝坊癖があるわけでも、怠け症があるわけでもない。おかしいなと思って、もう一度ドアを叩けば出てきたのは女の子。
ーーしかもあたしより可愛いじゃんっ!
思い出したらまたムカついてきた。バカハルのクセに!
はーぁ…。結構あったな…。
自分には無かったものを見る。
「なによなによ!どいつもこいつもおっぱいしか見てないわけ!?
…ハルは違うと思ってたのにな…。」
あの浮気が発覚して以来、愛菜はずっとこの調子だ。実はその女の子がハルだなんてことは知る由もない。
ーーピンポーン
階下から我が家のインターホンの音が聞こえる。どうせ宅配便とかだろうが。
お母さんが喋っている。誰が来たんだろうか…知り合いなのかな?
「愛ちゃーん!お友達が遊びにきたわよー!」
他人事のように思っていたが、急にこちらに飛んできた。今日誰かと遊ぶ約束なんてしてたっけ…?
メッセージアプリの履歴をざっと見返す。うーん、やっぱりそんな約束してないけどなぁ。誰だろう?まあ、行けばわかるか。
お母さんに適当に返事を返しつつ玄関へ向かう。階段を降りながら気だるげに来客をお出迎え。
「はいはーい。どちらさ、ん…って…え?」
「あ…どうも。」
いやどうもってアンタ…。
は?
浮気相手乱入イベント発生?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お母さんには友達だと言い張り、あたしの部屋まで通してもらった。ひとまず、あたしもこの女から話を聞いてみたいとは思っていた。
ここへ来た目的も。大方、あのバカから場所を聞いたんだろうけど。
「で?何の用なの?」
「う、うーんと、なにから話したらいいんだろうな。」
「うじうじしてないでハッキリと言ってくれる?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。多分普通に言っても信じてもらえない。」
「あぁ、そう?」
ビキッと額に青筋が浮かんだ。へぇ、『私たちの関係は普通じゃないから』とでもいいたいのかしら?
いつから一緒にいたのか知らないけどこちとら一年いたんだからね。
「言ってみなさいよ。なにが信じてもらえないですって?」
目の前の女は目に見えて怯えていた。
…なによ、あたしが脅かしたみたいじゃない。大体、この被害者ってあたしじゃないの?
愛菜がイライラしていると、目の前の女はとんでもないことを言い放った。
「…実は、俺、ハル…なんだ。」
…ん?
………んんん?
ちょっとまって、今なんて言った?俺がハル?あたしがハル?ハルが俺?ハルってなんだっけ…あ、ハルか。
え、てことは目の前のこの子が…ハル?
…いや、まさか。からかってるの?あたしを?
「冗談もほどほどにして。笑えないわよ。」
「いや、本気なんだ。
…信じてくれ。」
やだ、すごい真剣な顔してるんだけど…
あれ…、ハル?いやでも、そんなことあるわけない…
でも、この真剣な顔。あたしは見てきた。
そしてそこに、恋したんだ。
…ハルだ。
こんな顔、ハル以外にはできなかった。
ハルがあたしに告白してきたとき。
ハルがあたしに大事なことを伝えるとき。
ハルはいつも、この顔をしてた。そしてあたしはいつも、その顔にときめいていたのかもしれない。そんな顔を、間違えるはずがなかった。
静寂を破るように、愛菜は口を開いた。
「…ハル、なんだね。」
「…信じて、くれるのか?」
「普通ありえないんだけどね。信じられるわけないんだけど。でも、ハルだとしか思えなくなっちゃった。」
そういうと、女になったハルは嬉しそうに笑った。でも、どちらにせよ、あたしの恋は終わっちゃったかな。
もうそういう風に見れないもの…。だけど少し、スッキリしたかな。
ハルの笑みを眺めながら、愛菜は微笑んだ。
真摯に接すれば、相手には伝わるものです。
まあ、真摯にやったところでどうにもならないものもありますが。
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