45.一緒にお風呂
あらすじ
寂しいだけだから
―――ぱしゃっ…
白く濁ったお湯を手ですくう。湯気がもわもわと立ち上り、せまい風呂に充満している。
私、なんか勢いでとんでもないこと言っちゃったな。
心の中で自分の言動を思い出し、恥ずかしさから湯船で膝を抱えて縮こまる。今は脱衣所で聞こえる衣擦れの音を聞きながらドキドキしつつその時を待ちわびているところだ。どうしても涼と一緒に居たかった私は、一緒に寝ることにとどまらず一緒にお風呂に入ることまで懇願したことはご存知の通りだ。
ただ、冷静に考えてみれば、水着があればまだよかったものの女になった時期的に水着は必要ないと思って購入していなかった。事前にこうなるとわかっていれば購入しただろうに、自分の訳の分からない勢いでこんなことになってしまった。
風呂に口元まで浸かりぶくぶくと泡を作る。応急処置として入浴剤を入れてはみたものの、体を洗うときは身体に巻くタオルを用意したとはいえ無防備だ。もとは男だったとはいえ、やっぱり好きな人に身体を見られるのはソレが訪れたときがいいと思うのは自然なことだろう。
―――ガララッ
「あ、と…大丈夫だったか?」
涼が心配そうな顔で浴室に入ってくる。大事なとこは……うん、ちゃんとタオルで隠している。私もちゃんと浸かっているからまだ問題はない。肩まで出ているのは少し恥ずかしいが、許容範囲だ。
「うん、大丈夫。はやく、こっちきて」
あんまり裸で突っ立っていられると、上裸であれ目に毒だ。いや、悪い意味でじゃない。その……きゅんとしてしまうから。
「おう…」
涼少し気まずそうに湯船に浸かる。湯船はそんなに広くないので、向かい合わせだとぎゅうぎゅうな形になってしまう。私はくるりと体の向きを変えると、涼の足の間にすっぽり収まり、こてんと涼の胸に頭を預けた。
ぴちょん….という水滴が落ちる音がやたら響く。涼の胸からどっくんどっくんと強い鼓動が聞こえて、私は思わずふふっと笑った。
「涼、すっごいドキドキしてるね」
「……そりゃそうだろ、こんな風にハルと風呂に入るなんて思わないもんな…」
「どう? 一緒に入った感想は…」
「……いや」
「なんかあるでしょ」
「……ハルの頭、すごくいい匂いがするな…」
「……なんか変態っぽいよ…」
「言わせたのはハルだろ…それにこんな近くにいたら嗅ぐなってほうが無理だ」
「はぁ」とため息をつく涼を見上げて、私はくすくすと笑う。私の匂いにどぎまぎしてくれるってことは私を意識してくれてるってこと。そんなの、嬉しいに決まってる。
「にしても、ほら、私のいった通りじゃん」
「……? なんの話だ?」
「涼とお風呂に入ってもなーんにも起こんない」
「…お前なぁ」
「……ぎゅってするくらい、いいんだよ?」
もう、ここまできたら半分ヤケクソ。抱いてとは言えないが、抱き締めてとは言える。涼は一瞬言葉を詰まらせたが「いいのか?」と恐る恐る聞いてきた。
「いいもなにも、ここまできてそんなこともしなかったら男じゃないよ?」
「……わかった、それじゃ…」
ぱしゃっ…と水面が波打ち、涼手が両脇で白い濁りの中でうっすらと見えた。そのままその腕は私を包み込んで、きゅっと締め付ける。素肌と素肌が触れ合い、とくとくと私の心臓が淡く鼓動を伝えてくる。私は涼のたくましい胸板に頬を預けて、思わずんふふと笑みをこぼした。やばい、すっごい幸せじゃん……
「あったかいね…」
「そうだな…」
どっちが、かは言わない。なんだか恥ずかしいからね。
きゅっと私を抱き寄せる腕の感触を確かめつつ、私は涼によりかかって頬ずりする。すると、涼は抱き締めていた片手を離して、頭を優しく撫でてくれた。
「へへ…気持ちいい…」
「ハル、ほんとに撫でられるの好きだよな」
「うーん、好きだね…心地いいっていうか、安心する。今はこうやって抱き締められてるから、余計に」
「………そっか」
「んん…そろそろ、のぼせちゃうね…涼の背中流してあげる。そこの椅子に座って」
洗い場に用意されたプラスチック製の小さな椅子をすすめる。少し残念そうな顔をしつつ「おう」といいながら湯船をあがってそこに座った涼を見届けてから、私も涼に見られないようにタオルを体に巻いて涼の背後に跪く。
「へへ…なんかさ、緊張するね」
「…そうだな」
照れ笑いをして、わしゃわしゃと手の中でボディソープを付けたタオルをこねながら泡立たせる。「これでいいかな」なんて言いながらそのタオルを涼の背中にあてると、びっくりしたのか身体をビクッと震わせて硬直してしまった。
「ふふ、痒いとこあったら教えてくださいねー」
そんなことを言いながらタオルで涼の背中を流す。こうやって涼の背中を見ていると、無性に抱きつきたくなるが、今は我慢。にしても、涼って本当にいい体つきしてるなぁ…
ぽわーっとしながら涼の背中から腕までタオルで擦る。あとは前だけど…さ、流石にそれは自分でやってもらおう……
「は、はい…前は、自分で…」
恥ずかしさからごにょごにょと呟きながらそっとタオルを渡す。涼は「当たり前だ」と照れ笑いをしてタオルを私の手から受け取った。
そんな涼の笑顔に当てられて、私は堪らずまた湯船に戻る。涼はそんな私をみてくつくつと笑っていたが、私はもう恥ずかしさでどうにかなりそうだったのでさっきと同じようにぶくぶくと泡を吹いて気を紛らわした。
しゃーっと身体を流す涼をぽーっと眺めていると、いつのまにか洗い終わった涼がぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。
「ほら、のぼせるぞ、ハル。先に出るから、はやく出てこいよ」
「んー、アイサー」
ゆるーく右手を頭に掲げて涼に敬礼すると、涼も一緒になって笑いながら敬礼してくれた。
「ほら、はやく出た出た! 私も身体洗うんだから!」
「はいはい、待ってるよ」
ガラガラっと扉を開けて出て行く涼を見届けてから、これからのことに思いを馳せる。
……う、うん、ちょっと、今日は念入りに洗っておこうかな……
昨日は更新できなくてごめんなさいっっっ
そろそろノクターン案件になってくるのでどんな構成にしようかで頭がいっぱいです………
お待たせして申し訳ございませんでしたあ(๑ ˭̴̵̶᷄൧̑ ˭̴̵̶᷅๑)
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