4.感謝
あらすじ
母さんに電話したら切られた。
ーープルルルッ。プルルルッ。
電話の切断音とともに意識までシャットダウンされたかのように呆けていた葉輝は、スマホから再び発せられた機械音によって意識を浮上させられた。
慌てて応答ボタンを押す。
『ごめんなさいね。我が家の一人息子が、いきなり一人娘になっちゃったのかと思って気が動転しちゃったの。そんなことあるはずないのにね。それであなたは?ハルくんの彼女かしら?』
いや、そのまさかなんだよ母さん…
葉輝は、一番ありえないはずの事実を一発で当ててしまった母に戦慄を覚えた。
とにかく、俺が葉輝だって、伝えないと。しかし、声を出そうとしてもなかなか口からその言葉はでてこなかった。拒絶、絶望、様々なネガティブな感情が頭を回り、葉輝の脳を支配していた。
「あ………う……。」
どうやっても、掠れた声しか出てこない。まるで金縛りにあったかのように、全身に力が入らない。
「どうしたの?
もしかして、ハルくんになにかされたの?…なにか辛いことがあるなら、話してみて。」
俺が何かしたこと前提で話しているのは些か納得がいかないが、その言葉は葉輝の心を温めるには十分だった。胸のつかえがとれ、この人なら大丈夫かも。
言外に、そう思わせてくれた。
「…くふふ。どうして俺が何かした前提なんだよ。
…俺が、葉輝。瀬川 葉輝だよ。」
「…は?」
驚愕に満ちた声。
それはそうだろう。俺だって急に母さんが男になった!なんて聞かされたら泡を吹いて倒れるかもしれない。
『今日からハルくんのお父さんは二人だよ!
わっはっはっは!』
などと言われたら首を吊ることも辞さないだろう。でも、この人なら、母さんなら受け止めてくれる。根拠なんてないが、強い自信があった。
長い静寂。永遠かとも思うような時間。ぽつりと、母さんの声が聞こえた。
「…お母さん、すごくない?」
「…ん?」
なんだろう。聞き間違いだろうか。どの流れで母さんはすごくなったんだろうか。俺を勇気付けたところだろうか。それは果たして自分で言うことなのだろうか。
「えっと…?どういうこと…?」
「だって!やっぱりあたしの息子は娘にチェンジしちゃったんでしょう!あたしの直感は流石ね。なんとなくそうかもしれないって思ったのよー。」
事もなげにそう言ってのける母。なんだか毒気を抜かれてしまったような気分だった。
傍から見た自分の顔はすごくひどい顔をしていると思う。真剣に悩んで、馬鹿みたいだ。でも悪くはなかった。
何かが、胸から込み上げてくる。それは涙ではなかった。自分を受け入れてくれた、存在を認めてくれた、唯一無二の母親に向けて。
ただただ、感謝の念を抱くのだった。
親孝行、しないとな。
これからは息子じゃなく、娘として…。
当初の予定ではシリアス展開でいこうと思ったのですが、あっさりしてるほうが私的にしっくりきたのでこうなりました。
この物語はハッピーエンドにするつもりですので、安心してご覧ください。
電話直後の母
「あたしの一人息子が急に一人娘になったのかと思って思わず電話切っちゃった…。
でも、そんなことありえないわよね。
いくら今の声が、ハルくんと可愛い女の子の声をうまい具合にミックスしたような女の子の声だったからって…。
きっとハルくんの彼女でしょう。
でも、一人娘…ふふ、悪くないわね。」
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