36.ストライク
あらすじ
開き直ればこっちのもんよ。
不気味なまでに強力な引力によってガーターになった私は、その後3回投げたが、3回ともガーター。もう訳がわからない。全部手前で曲がる。磁石でもくっついてんのかってくらいに曲がる。多分私はあのピン共に嫌われているんだと思う。
優也は涼しい顔をして二回ストライクを取っていた。誠にムカつくやつだ。涼はスペアと9本。残った一本が端っこの一本だったから難しかったようだ。
そして翠ちゃん…そう、翠ちゃん。私はあの翠ちゃんを最初から最後まで動画に撮りたかった。恐る恐るボールをころころっと転がして、しゃがみながらそのボールの行く末を見守るのだ。ボールは低速でころがっていくので曲がったりもする。だが、運良く真っ直ぐ転がっていってピンを4本倒した時の顔。もはや可愛さの権化だ。もう目がキラッキラしてた。無表情なのに「嬉しい!」「楽しい!」って気持ちが爆発してた。
それとは裏腹に、ガーターの時はひどく悲しそうな雰囲気を出してこっちを見てくる。もう思わず駆け寄って抱きしめてしまった。ここまでくると、ないはずの母性本能が目覚めてくる。
「ハルと翠の時はガーター無くしてみるか。」
その様子を見ていた優也がなんとなしにそう言うと、ハルと翠が同時に優也を見た。
「え!? そんなことできんの!?」
驚嘆するハル。驚愕している(気がする)翠。
「ああ、脇のとこに壁を出して、ガーターに入らないようにできる。やるか?」
そんなことができるなら、私も磁石に引っ張られたとしても1本くらいはピンを倒せる。翠ちゃんも悲しそうな顔をしなくて済む。確かにそれはいいかもしれない。
「うん! ちょっとやってみたいな。 翠ちゃんは?」
ひとまず翠ちゃんにもお伺いを立ててみる。すると間髪いれずに首を縦に何度も振っていた。大賛成といったところか。
「よし、じゃあそれでやってみよう。」
優也はそんな翠をみて微笑みながら、手元のスクリーンを操作し始めた。しばらくまっていると、ゥィィィィンと音を鳴らしながら左右から柵のようなものが生えてきた。確かにこれならガーターには入らないね。
「おおお! じゃあ早速翠ちゃんから投げてみよ!」
そう言って翠に順番を促すと意気揚々とボールの元へ向かって行った。もうこの子なにしても可愛い。ダメだ……
そして、翠はボールを手に取り、さっきまでと同じようにしゃがみこんで、ボールを転がす姿勢になった。すると、ハルにちらりと振り返ってきた。もう顔面に「見ててね?」って書いてある。見てる見てる瞬きもしないで見てるよ!!!
翠はレーンに向き直ると、そっとボールをころころっと転がした。ボールは少し曲がりながら左の壁に当たって跳ね返る。すると、うまい具合にピンの集合の左あたりにいくコースに変わった。そして、ボールはそのままピンの集合へ吸い込まれ、7本ものピンを轢いていった。
バッと振り返る翠ちゃん。私は思わず立ち上がって手を広げる。そして翠ちゃんは躊躇なく私の胸に飛び込んできた。ああ……天使だ……
「やったね翠ちゃん。いっぱい倒したね!」
私の胸の中から私の顔を見上げてコクコクと頷く翠。このままお持ち帰りさせてほしい。こんな可愛い子は優也にはもったいない。
涼と優也は、脇に逸れるようなこともなく難無くストライクを取ってきたのでそれぞれハイタッチをした。この、人がストライクを取った時のハイタッチってボーリングの醍醐味だと思うんだよね。あんまり来たことないからわかんないけど。ほら、そこの人たちもやってる。
「ほら、次はハルだぞ。頑張れよ。」
ストライクを取ってきた涼とハイタッチしていると優也が順番を促してきた。
「お、そっか。次私か。私もストライク取ってハイタッチしたい!」
「その前に、ハルはまず球が曲がらないようにしないとダメだぞ。」
優也が余計な口を挟んでくる。思わず、ハルは口を尖らせて優也に反抗した。
「そ、そんなの分かってるよ! 黙って見てて!」
まったく、あいかわらずムカつくやつだ。
ただ、優也の言うことは間違っていない。ストライクとかの前に、強制的に発動する曲がる魔球をなんとかしないといけない…なんだこの扱いにくい魔球は……
うーんうーん、と唸ってボールを持ちながら如何とするか考える。すると、そっと両方の肩に手が置かれた感覚があり、ピクッと体が跳ねてしまった。
「曲がるんだとしたら、もうすこし右に寄ってみたらどうだ?」
振り返って見上げてみると、そんなことを言う涼の顔があった。でも、私としてはそれどころじゃない。もうただ触られただけで今はドキドキしてしまう。
「う、うん…やってみる…」
尻すぼみな声になってしまう。もうこれに関しては開き直ったし、率直に言ってこの感覚が嫌なものじゃないって受け入れた。…でもそれとこれとは別なの!! 恥ずかしい!!
「うーん…この辺か……」
そう呟きながら私の肩に手を置いて、てくてくと左右に移動させてくる。私はその間ずっとボールを両手に持って、ただされるがままになっていた。
そんなハルを見て、くつくつと笑っている人間が一人いたが、ハルが気付くことはない。
「よし、これで投げてみな。」
場所は決まったらしい。レーンの右端から約二歩左。相当端っこのほうだ。途端、肩に乗せられていた手が離れて少し残念に思う。できるなら、もっと触れていてほしかった。どう誤魔化したって、そう思っちゃったんだからもう仕方ない。
涼に露骨に残念そうな顔を向けてみると、涼は疑問符を顔に浮かべて首を傾げた。
「ん…? どうかしたか?」
「いや…なんでもないよ。ありがとっ。」
もっと触って。なんて言える訳はないので、とりあえず自分のためにやってくれたことに感謝の意を伝える。確かに、ここなら曲がってもまだ当たるかもしれないもんね。
「そっか、じゃ頑張れ。ハイタッチ待ってるぞ。」
「おう! みとけよ!」
片腕を上げてその声援に応えると、涼は満足そうに笑って二人のところへ戻って行った。心臓はまだ早鐘を打っている。でも、心地いい。
真っ直ぐ伸びたレーンの先にある白い筒を見据える。先程までとは違う場所だが、さっきみたいに投げれば絶対にいいコースに行くはずだ。
ふっと息を吐いて踏み出す。さっきまでとほとんど一緒の投げ方。そうやって投げ出されたボールは中腹まで真っ直ぐ転がって行った。しかし、いつもの謎の引力で左へ引っ張られる。そして向かう先は……先頭とその右隣の間。
ーーーガコーーン!!
実に気持ちのいい音を響かせて、全てのピンを弾き飛ばしていくピンク玉。そして上部に取り付けてある大きなモニターに表示される『STRIKE』。
思わず、バッと三人がいるほうを振り返ると、すぐさま翠が胸へ飛び込んできた。意表を突かれたハルは驚きながらも、しっかりとその小さな体躯を抱きとめる。
「わわっ、翠ちゃん。」
無事ハルの胸に収まった翠は、ゆっくり顔を上げてハルを見た。
「…………やったね。」
表情を見ればわかる。本当に一緒に喜んでくれているんだ。ハルは、今日初めて会ったとは思えないほど、翠のことが分かるようになっていた。
「へへ、ありがと、翠ちゃん。」
ハルがにこやかにそういうと、翠もふわりと微笑んだ………気がする。
翠と席に戻ると、涼と優也がハイタッチで迎えてくれた。
「やったな、ハル。」
そう言って手を出してくる涼に、感謝しながらハイタッチをする。
「涼のおかげだよ。念願のハイタッチだ!」
「ああ、思ったより上手くいって、俺もびっくりしたよ。そこはハルの力だな。」
「ようやくハルもストライクか。良かったな。」
「ハル…………かっこよかった。」
皆口々に労いの言葉をかけてくれる。特に最後の翠ちゃんの言葉にやられてついにんまりとしてしまう。
ハルは、たまにはこうやって皆で遊ぶのも悪くないね、なんて今更なことを思っていた。
ボーリング回が思いのほか長くなりそうなの面白いですね。本当はこんなに長引かせるつもりなかったんですが、いちいちハルと涼を絡めてたら尺が………………
悪魔にTSさせられてやんややんや言い合いするわけのわからない話も書いてますのでよかったらそちらもどうぞ!
感想等々聞かせてください!それを聞くだけで私は幸せな気持ちになれるので、なんでも教えてください✧◝(*´꒳`*)◜✧˖




