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35.葛藤

あらすじ

二回も抱かれた。

 優也は時折不思議に思う。こいつらは一体何がしたいんだと。


 ハルと涼は、一緒に戻ってきたが何故かどこか気まずそうだった。ハルは顔を真っ赤にして顔をぱたぱたと扇ぎ、涼は居心地が悪そうにしていた。

 …まあ、ドジなハルのことだから、大方ボールの重さを測り違えてその拍子で…ってところだろうけど。


 はぁ、と軽いため息をひとつ。前回はバカみたいな仲違いをしていたが、今回はただ恥ずかしくてどう接したらいいかわからないだけのようだ。どこまでウブでバカらしいんだ。俺はそんなところまで面倒を見切る余裕はない。


「やっと戻ったな、じゃあ交代だ。行こう、翠。」


 少し心配そうに二人を見つめる翠に声をかける。翠は、優也の行こう。という言葉にある「ほっといても大丈夫」という意味合いを感じ取り、すこし表情を緩めた。とはいえ、そんな微々たる変化に気付けるのは優也しかいない。また、その逆も然りだ。



 涼は二人が行ってしまったのを見届けると、重い口を開いた。


「あの、ごめんな? ハル。」


「なっ、なにが…」


「いや、急にあんな…さ。」


 あんな……その言葉にハルはまたあの感覚を思い出して顔を赤らめた。自然と扇ぐ速さが上がる。


「い、いや…それはその……」


 なんと言ったらいいのかわからない。正直、全く嫌じゃなかった。………はぁ、素直になんかなれないよ。だって本当は、もっともっと抱きしめて欲しい。でもこんなこと、絶対に言えない。……だって、『男だった』私を、抱きしめたいはずがない。それに、私が男を好きになることなんか……ないはずなんだ。


「も、もう気にしないでよ。ほんと、私、気にしてないからさ。」


 嘘だ、気にしてる。さっきから涼の胸板ばっかりちらちら見ている。………いや、見てない! 私は断じて、男のことなんか……ましてや涼なんて…っ


 心の中のもう一人の自分が、ハルの頭を侵食する。茹だった頭は、すでに正常な運転なんかできていやしなかった。


「本当、すまなかった。もうあんなことがないように気をつけるよ。」


 胸が痛んだ。もう「次」がないことに。そしてそんな感情が浮かんだ自分に。


「いや……私も、気をつけるよ。ごめん。」


 少し冷静になった。冷水をぶっかけられたような。…いや、違うな。現実を見せられただけだ。これが当たり前だし、私はこうあるべきなんだ。これが……普通。


「せっかく遊びに来たのに…なんか、ごめんね? ほら! もう私大丈夫だからさ。今日は楽しく行こうよ!」


 空元気だった。自分でも分かる。でも、数刻前の自分を認めないためには、そこから目をそらすしか思い付かないんだ。


「あ、ああ。そうだな。」


 浮かない顔で笑顔を作る涼。その顔を見たら、自分が折れてしまいそうで見ていられなかった。



「…お前らまたなんかやってんの?」



 最近よく聞く、優也の呆れた声。でも、これは私が悪い。原因も、過程も、そして結果も。


「いや、もう大丈夫だよ! それよりほら、みんな揃ったなら始めよ?」


 無理に元気を出す。きっとボーリングを始めれば、全部忘れられるから。

 すると、翠がじっと私を見ているのに気が付いた。不思議に思って、思わずじっと見返すと、翠はゆっくり近づいてきて、私の頭をそっと撫でた。



「……へ?」



「………………」



 ただ無言で、無表情で、ただ撫でてくる翠。なのに、私は涙がせり上がってくるのを確かに感じた。



ーーーま、まずい! 泣く!!



 ハルは、優しく頭の手を退けると、慌てたように言った。


「あっ、あの、化粧ちょっと落ちちゃったから…お手洗い…行ってくるね。」


 ただ一方的にそう告げて、ハルはトイレに逃げ込んだ。手洗い場の鏡に映り込む自分は、まさしく無様だった。


「ひっどい顔……」


 化粧云々なんかじゃない。見てられないような顔をしていた。………バカみたいな顔だ。


 どうして翠に撫でられただけで泣きそうだったのか。よくは分からない。ただ、あの子は今の私を認めてくれた。そう思った。


 今日はもう、考えることはやめよう。今度愛にでも全部話そう。私が本当に素直になれるのは、多分愛菜しかいない。


 最近、開き直るってことをしてないな。私のいいところでもあり、悪いところでもあったのに。……久しぶりに開き直ってみるか。「抱き締められたい。」そう思って何が悪いんだって。誰に?……断固抗議してくる、自分にだ。


 ハルは化粧が落ちるのも関係なしに顔を水でザバッと洗った。穢れを落とすように。気がすむまで顔に水を浴び続けた。


 ああ、スッキリした。たまには悪くないね。開き直るのも。

 今度は空元気じゃない。完全には回復していないが、幾分元気はでた。化粧なんかしない。私は元がいいんだ。羨ましいだろ?


 急に化粧も御構い無しに勢いよく顔を洗い出すという奇行に走ったハルをみて大層驚かれてた先客が二人ほどいたが、もう会うこともない。大した問題でもないだろう。



「おう、おかえり……って、化粧直してきたんじゃなかったのか。」


「ただいま。もうめんどくさいからさ、全部落としてきちゃった。ほら、私別に化粧しなくてもいけるんじゃない?」


「あー、うん。そうかもな…」


 やや返答に困った優也。なんだお前なんか文句あんのか。


「涼はどう思う?」


 涼に振ってみる。これは私がもう大丈夫かどうかのセルフチェックだ。


「えっ、俺か? いや…可愛いと思うぞ。」


 恥ずかしそうに可愛いと言ってくれる涼。向かいに座っている翠もコクコクと首を振ってくれている。

 涼をからかって楽しい。そんな気持ちが湧くほどには自分に余裕が戻ってきているらしかった。


「ありがと! じゃ、早速始めますか!」


「おー、2ゲームな。最初はハルからでいいぞ。」


「よっしゃまかせろ!」


 そう言って、ピンク色をした8ポンドの球をむんずと掴み構える。涼によると、女の子はこのくらいらしい。言われた通り、あれよりは確かに軽い。


 翠が見るからに「頑張れー!」といった感じで応援してくれている。なんだかほっこりするなぁ。


 規則正しく並ぶ白い筒を睨む。まあ、最初くらいね、軽くストライクとってやりますよ。


 数歩踏み出して球を後ろに振る。フォームとかはよくわかんないけど、大体こんな感じ!ってイメージで投げる。まっすぐ転がっていくピンクの球体。その先は完全に先頭のピンど真ん中!


「お! 本当にこれくる!?」


 先頭のピンは目と鼻の先! 自分の中で期待が高まるのが分かる。ていうかもう叫ぶ準備できてる。


 球は順調に転がりそしてーーー




ーーー何故か手前でぐりんっと曲がった。




 そしてスクリーンに表示されるガーターの文字。


 ………いや、なんで?


 とりあえずそこでひっくり返って笑ってる優也。お前あとでおぼえとけよ。

急展開+急展開でちょっとよくなかったかなと思うんですが、そろそろハルにも意識してもらわないと困っちゃうんですよね。だって早くくっついてくれないと………さぁ。


悪魔にTSさせられる話も書いてます! よかったらそちらもお願いします✧◝(*´꒳`*)◜✧˖


感想の方たくさんくださいほんと一人一人に感想聞きたいレベルですもしお気に召したら感想聞かせてください!!!

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