31.そのまさかだ
あらすじ
愛菜がどんどんダメな子になっていく。
私は悲しい。
ハルが愛菜をぶん投げた後、思いのほか時間がないことに気づいて二人して慌てて家を出た。後で考えれば、あんなことして結構大胆だったなと少し恥ずかしくなる。
「ハルのおっぱいには神秘が詰まってた…」
いや、まだ言ってるし…結構複雑だぞこれ。
「もういいよそれは…人が優しくしたらすぐそういうこと言うんだから。」
ただ、なんで愛菜が急にそんなことを言うのか、ハルには何となく分かっていた。少しきつく抱きしめた時、ハルの心配する気持ちが愛菜に伝わったのだろう。愛菜はとっても優しい人だから、私をあまり心配させまいと、わざとおどけてみせたのだ。
「あの、もっかいだけやってくれない?」
うぅーーーん……やっぱ勘違いなのかなぁ?? 優しい子なのは間違い無いんだけどなぁ…。
着実に愛菜がダメな子の階段を登っている気がする。もうこの子を止める元気も気力もないよ…
一抹の不安を抱えて、ハルは大学へ歩みを進めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん、あれ、水瀬くんじゃない?」
大学に着くなり、愛菜は指を指して言った。
「え、嘘。そんな偶然ある?」
言われるがままに愛菜の指す方を見ると、今しがた到着した様子の涼がいた。「本当だー」と言いながら視線を戻すと、愛菜はにやにやしながらハルを見ていた。
「ほら、髪留め見せておいでよ。水瀬クンのプ、レ、ゼ、ン、ト♡でしょ?」
口元に手をやって歯を見せながらニヤニヤする愛菜。まさしく小悪魔といったところか。尻尾まで幻視できた。
「もう、変な言い方しないでよ。ただ買ってくれただけだって。」
「そっかそっか。ま、でも、仲直りして初めて学校で会うんでしょ? はやく行っておいで。」
全然分かってない。顔がもう面白がってる顔だ。「だからそんなんじゃないってば」と言いながら愛菜に手を振って別れる。
「じゃ、またね。」
「はい、また今度ね。」
ぱたぱたと手を振って自分の講義室へ向かう愛菜を目で見送ると、早速涼のところまで駆け寄っていった。
「涼ー!」
駆け寄りながら涼に向かって手を振る。それなりに大きい声を出したせいか、周りから視線が集まった。でも、もう別に気にしない。涼が彼氏だと思って告白がなくなるなら万々歳だ。
「お、ハル?」
涼が驚いたような顔で振り向いた。
いざ涼の前まで来てみると、本当にこの時間に大学で会うのは久しぶりだったので、妙に気恥ずかしく感じてしまう。
「あー……よっ」
「…よう。」
なんだかお互いに変な挨拶になってしまった。なんだ、「よっ」て。
すると、涼が堪え切れないと言った様子でクスクスと笑い始めた。そんな様子を見たら、なんだか気恥ずかしくなってたのがバカバカしくなって、おんなじようにくくくっと笑った。
「おはよっ、涼くん?」
「ああ、おはよう。ハル。」
改めてちゃんと挨拶。ようやく、本当にちゃんと仲直りできたような気がした。
「昨日は遅くまでごめんね? 大丈夫だった?」
「当たり前だ。もう小学生じゃないんだぞ。」
「違うよ、このハル様とあんなに一緒にいたから、夜は寂しくなかったか?って意味だ。」
いつもの調子を取り戻したハルは、からかうように目元を上げてそんなことを言う。いつも振り回されてばかりじゃ面白くないしな、と涼も反撃を試みる。
「…ああ、ちょっと寂しかったかもな。」
「…ふぇっ!?」
ボッと音が出るほど一瞬で顔を真っ赤にして破顔するハル。…おや、思った以上に効果あったみたいだ。
「く、くそ…涼にそんな返しをされるとは…迂闊だった…」
「くく、じゃあ、負けた方は飲み物一本……って、ハル、それ。」
涼は何かに気づいたようにハルの後頭部を見た。すると、何を見ているか気付いたハルは少し恥じらうように、でも喜色を含んだ表情でそれに手を当てた。
「……うん。涼にもらった髪留めだよ。仲直りしたから…さ。着けてみたんだ。……えへ、可愛い?」
髪留めを愛でるように撫でながら、頬を桜色に染めてでれっと笑うハルに、今度は涼が真っ赤になる番だった。
「…っ。あ、ああ……すごく、似合ってるよ。」
心臓を何とか落ち着かせながら喉を精一杯動かして声を絞り出した。嬉し恥ずかしそうにデレデレと笑うハルに、目が釘付けになる。
「あれ? 今私にきゅんとした?」
「………した。」
悔しいが、認めるしかない。間違いなく今ときめいていた。自分のあげたものを頬を染めて嬉しそうに見せびらかしてくるのだ。これで胸が高鳴らない人間なんかいないだろう。
甘くとろけるような笑みから一転、挑戦的ないたずらっぽい笑みに変わる。
「ふふ、これで一対一…だね?」
そんなセリフを受けて、大人しく両手を挙げて降参の意を示す涼。
涼は内心、助かった。と思っていた。あんな表情をずっと見せられたらどうにかなってしまいそうだったから。しかし、この戦いが続けば、どうやってもハルに悶え死にさせられるのが見えていたので、大人しく手を挙げたまま「参ったよ」と呟く。
「もう諦めちゃうの? これからハルちゃんの魅力で涼を籠絡しようと思ってたのになぁ。」
「それ、冗談だよな。」と目元をヒクつかせる涼。…ふふ、やっぱり、涼をからかうのは楽しいなぁ、などと思いながら「さぁ? どうだろうね?」と言ってやった。
「そんなことよりほら、遅れちゃうよ? はやく行こう?」
そう言ってそっと涼の手を握る。すると、露骨に涼が狼狽えた。
「なっ、ハル…こんなとこで手なんて…」
「大丈夫だよ。それとも、恥ずかしいの?」
ニヤニヤしながら、真っ赤になった涼を見つめる。…涼の反応はなんだか初々しくてついついからかっちゃうね。
一方涼は、まったく…と言いながらハルの手を引いて講義室へ足早に向かう。早いところこの羞恥心を消し去りたかった。
流石に講義室に入る前には手は離して、普通に入室した。付き合ってるわけでもないのに、そんなほいほい手繋いでたら変だもんね。
「よっすー、おはよう優也!」
「おはよう。」
「ああ、ハル、それに涼も。おはよう。」
こうやっていつもの朝が始まる。ここ二週間、涼がここにいなくてずっと寂しかった。ようやく涼がここに戻ってきたと実感して、ハルはついついにんまりと笑みを浮かべてしまった。
「お前らその様子だと、ようやく仲直りしたんだな。」
「ああ、ありがとう。優也、お前のおかげだ。」
「いいってことよ。それより、もう半端はすんなよ?」
「ああ、分かってるよ。」
「そうだろうな。」
…な、なんだかよく分かんない会話が繰り広げられてる…。お前のおかげ、とか、半端、とか何の話…?
「ね、ねぇ…何の話?」
涼の服の裾をくいくいっと引っ張って尋ねる。すると、涼は少し困ったように肩を竦め、「何でもないよ。」と誤魔化した。そんな言葉に、思わずむーっとむくれると、涼は困った笑顔を見せながら頭を撫でてきた。
「涼? そんなんじゃ誤魔化されないよ?」
「すまんな。じゃあ、今だけ誤魔化されてくれ。」
苦笑いしながらハルの頭を丁寧に、優しく撫でる涼。やっぱり、撫でられるのは好きみたいで、「ま…今だけ誤魔化されてもいっかな…」なんて思ってしまった。我ながらどうしようもないな…。
「うん、そんだけ仲良くなったならいいな。明日は二人とも空けておいてくれ。ダブルデートといこうじゃないか。」
…ん?なんだか優也から聞き馴染みのない言葉が………ダブル……なんだって?
「ダブル……デート? え、優也のバーチャル彼女とか無理だよ? お母さん泣いちゃうよ?」
「あ、そうか、お前らには言ってないんだったな。」
「………え…?……まさか……………」
「ああ、いるんだ。彼女。」
…あっ…ふーん…………あ……てか、私達別に付き合ってるわけじゃ………あ、聞いてないね………
ぼちぼち今書き溜めてる連載物も出していきたい気がしないでもないんですが、もう少し引っ張りたいっていうか……本音を言えばこっちの連載をそれのせいで疎かにしたくないっていうジレンマが…………
あ、ちなみにそっちもTSします。バリバリ。
ただ、もう一つ書いてる連載のものはTSしません。全く。たまにはTS以外もいいな。なんてね。
あ、今更なんですが『雨のち晴れ』という短編も出しているのでそちらも是非ご覧ください。先に言っておきますがTSじゃないしイチャイチャもしません。恋愛で出しましたが、ヒューマンドラマ寄りかな?それでも、私の書きたいものとして気持ちを込めて書きました。是非是非そちらもよろしくお願いします✧◝(*´꒳`*)◜✧˖
感想とか色々なんでも送ってください最近の私の楽しみですお願いしますお願いします




