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29.あーん

あらすじ

涼にキスされて意識しちゃう。

 

 すでに日はとっぷり暮れ、あたりがもう暗くなってきた頃、二人はハルの部屋の前まで来ていた。

 コンビニを出てからのハルはまさに、「小躍りする」という言葉が似合うほどご機嫌だった。なんでも、本当に久しぶりの甘い物なのだとか。「3日に一回糖分を取らないと私は朽ちて死ぬ。」とか大袈裟すぎることを言っていた。




「じゃあ、また明日。学校でな。」


 ハルが部屋のドアを開けて体を半分中へ入れたところで、涼はそう言った。すると、ハルはきょとんとした顔をして小首を傾げた。


「え? もう帰っちゃうの?」


「ん、そりゃあもう家まで送ったしな。俺ももう帰るのが自然だと思うが…」


「つれないなあ涼くん。じゃあさ、ちょっとだけ、うちに寄ってかない?」


 ねだるように涼の服をつまむハル。というかそもそも女の子の部屋に男一人で行っても…あ、そうか、ハルはそんなつもりはないのか…。

 うちに寄ってかない?という甘い言葉に一瞬心臓が跳ねたが、よく考えるとハルとしては特に深い意味はないと気付いた。ハルからすれば、男が男に家で遊ぼうぜと誘うのとなんら変わらない。


 ハルはただ男同士でいるのと何にも変わらない心持ちでいるのは間違いない。しかし状況を客観的に考えてみてもほしい。可愛くて、今や羨望の的である女の子、というか普通に惚れてる女の子と六畳一間の空間に二人きり。…うん、なんていうか、究極のシチュエーションって感じだな。


「おーい、涼? 起きてる?」


 ハルが涼の顔の前でふるふると手を振っていた。思ったより思考に没頭していたらしい。


「ん、ああ、すまん。」


「もう、しっかりしてよね? 早く入って?」


 そう言って柔和な笑みを浮かべるハル。涼はそんなハルにそっと腕を引かれて、ハルの部屋に入った。

 正直、帰った方がいいんじゃないかとも思った。やっぱり好きな子と一部屋で一緒にいる、というのは健全な男の子には中々刺激が強い。でも、ハルのねだるような視線は拒絶なんてできなかった。ただ、自分はしっかり持とうと心に決めた。



「ちょっと散らかってるけど、ごめんね。」


「ん、これは散らかってるのか?」


 あるものはベッドと四角い中くらいの机とタンス。あとは机に置かれた化粧品程度だ。むしろその化粧品もしっかり小物入れに格納され、生活感はあれど乱雑な印象は受けない。散らかっているとはなんだったか。認識を改める必要があるのかもしれない。



「散らかってることはないと思うけどな。ていうかハル、やっぱり化粧品とか使ってるのか?」


「あ、やっぱり気になる? 今は薄く化粧してるだけだよ。ほら、ナチュラルメイクってやつだね。スキンケアは毎日してるよ。じゃないとさ、愛がうるさいんだよね…」


「ああ、清水か…もう付き合ってはいないのか?」


「うん…なんか、女の子に変わったら愛への想いはもう恋とかそういうんじゃなくなっちゃったんだよね。」


 そう言って寂しそうに笑うハル。


「せっかく涼にも助けてもらったのに。なんだかごめんね。」


 ハルと愛菜と涼は同じ高校だった。ハルは高校3年生の初め頃に愛菜と同じクラスになり、なんとなく気になりはじめ、気付けば愛菜が好きになっていた。その時何度も何度もハルが相談を持ちかけていたのが涼だった。

 これといって的確にアドバイスをしてくれるわけじゃない。そこはいい、涼に彼女なんていたことないから。ただ、告白するときに、ハルの背中を押したのは他の誰でもない、涼だった。その告白から愛菜と付き合うことが出来たので、ハルはそのことを、涼に少なからず感謝していた。


「そんなこと気にするなよ。仕方ないだろ?」


「うん…ありがとう。」


 そう言っても、寂しさの影は消えない。まるで、縋り付くものすらないような、そんな孤独をたたえた笑みだった。

 一瞬、そんな寂しそうな笑みを見ていられず強く抱きしめそうになったが、流石に踏み止まった。そんなことをすれば、ハルがもっと悲しむ結果を生むかもしれないと思ったからだ。そう言えば聞こえはいいが、ただ単純に言えば、ヘタれた。


「あ、そうだ。はやくモンブラン食べないと! ちょっと待ってね、今机片付けるから。」


 パンッ、と手を一つ叩いて、思い出したように行動し始める。せっせと化粧品を入れた入れ物を脇によけ、濡れ布巾で机を端から端まで拭く。こういうところは前から几帳面なんだよな、と涼は無駄に関心した。


「はい、おまたせ! 座って座ってー。」


 そう言って自分の向かい側を催促してくるハル。とりあえず、言われるがままに腰を下ろす。その向かいでは、「わぁー!」と言いながらモンブランの包みをさっそく開けていた。

 透明な包装だから、初めから中は見えているはずなのだが、開けて直接ご対面するのはまた別物らしい。あまりスイーツ類を食べない涼にはよく分からない感覚だった。


「いただきまーす!」


「どうぞ、召し上がれ。」


 ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、プラスチックのスプーンでモンブランをひと欠片すくうと、そのままゆっくりと口へ運んだ。


「んん〜っ。やっぱ美味しい。」


 そう言って頬を手で押さえて、ご満悦そうに唸るハル。そんな様子のハルに思わず苦笑する涼。


「そんなに美味しいか?」


「うん、めちゃくちゃ美味しいよ…! あ、涼も食べる?」


「いや、俺はいいよ。ハルが食べな。」


「そんな遠慮しないでさ、今日送ってくれたのと、このモンブランのお礼ってことで。」


 そう言って、同じようにモンブランをすくうと、そのままそれをこちらに向けてきた。…これはいわゆる、あーん、というやつなのでは…。ただ、本人は全くそんな気はない。そんな顔をしてる。


「いや、もう一つスプーンあるし、自分でいただくよ。」


「えっ、もしかして涼って間接キスとか気にする? この歳で野郎と間接キスなんて気にするの?」


 …いや、今のお前は百歩譲って野郎じゃない!


 そんな言葉をぐっと飲み込み、ついに涼は観念した。ハルにはなんの悪気もない。ただ友達と自分の食べているものを共有したいだけだ。そういうやつなんだ。


「ん、じゃ。」


 そういって差し出されたスプーンに口を近づける。


「はい、どーぞ。」


 そしてそのままそのスプーンに乗ったモンブランを涼の口の中にいれた。


「ね、どう、 美味しいでしょ?」


「………甘い。」


「はははっ、そりゃそうだよ! 何言ってんの!」


 正直、味なんてよく分からない。恥ずかしさやらなんやらで甘さしか伝わってこない。色んな意味で。



 その後二度三度ハルから無意識あーんを受け、割と恥ずかしさで心が疲弊した。ただ、好きな子にそんなことをしてもらうのも初めてなので、少し嬉しかった。全て甘かったけれど。




 結局その日は、割と遅い時間の帰宅になってしまった。「遅くまで引き止めてごめんね? 気をつけて帰ってね?」と眉を下げて謝るハルの頭を優しく撫でてやると、「んふふ…」と嬉しそうな声を漏らしながら涼の手に擦り寄ってきた。

 なんなんだこの可愛い生物…。とまた身悶えたのは言うまでもない。


「じゃ、また明日な。」


「うん、また明日、学校でね。」


 そうお互いに交わして手を振り合う。なんだか本当のカップルみたいでくすぐったかったが、悪くなかった。

なでなでされるのって気持ちいいですよね。

きゅーんってするんです。本当はそのまま胸に飛び込んで、ぎゅーされながらなでなでされたいのですが、ハルにはまだあげません。私は意地悪ですからね。性の喜びを知るのはまだです。


そろそろ下地もできてきて日常パートにいけるなと漠然と思っています。

ただ、甘ったるい展開は常に入れたいと思っています。書いてて楽しいですからね( ˙꒳˙ )


あ、そのうち新しいシリーズも出す予定なので、そちらのほうもその時はよろしくお願いします!


感想を是非とも聞かせてください!! 可愛いの一言だけで私は嬉しい気持ちになります!! チョロいんで!!!

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