28.もちろん分かってた
あらすじ
やっと仲直り。
「も、ほんと…涼のばかぁ…」
現在、ハルは耳まで真っ赤にしながら手で顔を覆って帰り道を歩いている。今日は涼が送るので、もちろん涼も一緒だ。
「いや、ついな…すまん。」
「別にいいんだけど…でも場所は選んでよね…」
実は、あのほっぺチューはなにも人のいないところでやったわけじゃない。帰るところのハルを呼び止めたので、講義室にはまだまばらに人が残っていた。例によってそのほっぺチューによって、そこにいた全ての人間から鋭い視線を頂戴したわけだ。
ハルの可愛さから衝動的にやってしまったとはいえ、流石に迂闊だったなと思わざるを得なかった。
…え、ていうか場所選んだらしていいのか?
なんか聞き逃せない一言を今言っていた気がする。正直に言えば、あのハルの頬の柔らかさはまだ唇に残っている。あの病みつきになりそうな感覚は、多分しばらく消えてはくれないだろう。
「えっと…場所選んだらしてもいいのか?」
恐る恐る聞いてみる。だって何回だってしたい。許されるならいくらだってしたいんだ。こう思うのも仕方ないだろう。
ハルはその言葉を受けて、口を大きく開けながら顔を真っ赤にして露骨に狼狽えた。…なんかやっぱり反応がいちいち可愛いんだよな。
「ち、違う! あんなこと毎回されたら心臓が…いやそうじゃなくて! 手繋ぐとかだったらいいけどあんな…ちゅーなんて…」
『ちゅー』と自分で言ったところでまた思い出したのだろうか、口元がぐにゃりと歪に歪んだまま、また顔が真っ赤に染まった。本当にそろそろ火がでてきてもおかしくないんじゃないか。
「と、とにかくっ! アレはダメ! わ、私が死んじゃう…」
…あー、なんなんだ。可愛すぎないか。
死んじゃう、と言って俯くハルは、耳まで発火しそうなほど赤くなっていた。そんなハルを見たら、涼も当然悶えてしまう。
しばらく妙な間が流れてしまった。お互いに恥ずかしさやらなんやらが生まれてしまって、微妙に気まずい。と、そこで涼は思い出した。あんだけ人に見られていれば、また涼とハルの交際疑惑が持ち上がるんじゃないかと。
「ハル、本当に俺が彼氏じゃないかとか言われてもいいのか?」
すると、ハルは少し驚いたように顔を上げて、そしてすぐに淡く頬を染めながらはにかんで言った。
「もうそんなこと気にしなくていーよ! むしろ、最近告白されすぎてて困ってるんだよね。だから、涼がいてくれたほうが安心かも。そのうちそんな話題もなくなるだろうからさ。」
…そうか、やっぱりハルは告白されてるんだな。それもそうか。こんだけ愛嬌があって、表情豊かなハルはそもそも人を惹きつける。現に俺まで….。
「そっか。じゃ、俺ももう気にしないことにするよ。」
「そうしてくれたほうが嬉しいかな? もう、本当に寂しかったんだからね? ああ、嫌われちゃったかと思ったぁ。私のこの傷を癒せるのは涼くんの買ってくれるスイーツだけかもしれない…っ!」
「女の子はお金で機嫌取るのはいけないんじゃなかったのか?」
「ふふーん! それとこれとは別。私がご所望なんだからいいの!」
そうやっていたずらっ子のように「へへっ」と笑うハルが眩しかった。
「どっちにしても元々買ってあげるつもりだったんだ。好きなの選べよ。」
「ほんと!? やったぁ。ほとんどダメ元だったんだけど、言ってみるもんだね。」
むしろそんなおねだりをされて断れる奴がいるのか、と疑問に思ったが、優也は買ってくれなかったらしい。むしろ買う買わないでいつものように喧嘩してたとか…なんだか優也と付き合ってるんじゃないかと荒んでた自分が遠い日のように感じる。てか今朝だ。
そんなこんなで、二人はコンビニに来てハルは目をキラキラさせながらデザートコーナーへ向かっていった。涼はというと、特に買うものもないので、あれこれ物色するハルを横で眺めていた。
…てか、前もこんなことあったな。確か本屋でこんな風に眺めてたっけか。あの時からもう意識してたもんな…いやほんと、我ながらちょろすぎる…。
自分の雑魚さ加減に無意識にため息をこぼしていると、すでにモンブランを手にしたハルが心配そうに涼の顔を覗き込んでいた。
「涼、どした? ため息なんてついて…」
心配そうに見てくるハルに、なんだか庇護欲をくすぐられてしまう。そっとハルの頭に手を伸ばすと、優しく一撫でしてやった。
ハルは「何? もぉ…」と言いながら気持ちよさそうに目を細めていた。いつからこんな、可愛さのステにポイント全振りしたんだ。
「何でもないよ。心配されるようなことじゃない。」
というか、ドキドキさせてくる本人に吐露するようなことじゃない。たった今「好きだ」なんて言ったところで、ハルを困らせるだけなのは目に見えてる。
じゃあ、いつ言うのか…そんなもの全くわからない。いつなら困らせないのか、てかむしろそんな時が来るのか。考えれば考えるほど分からないが、今はこの時を楽しむことにした。
「そっか。でも、なんかあったら言ってよ? たった一人の親友…なんでしょ?」
「ああ、ハルは俺のたった一人の親友だからな。」
「ふふふ、なんで私しか親友いないの? もっと交流広げなよ。」
そんなことを言うハルだが、内心では「たった一人の親友」であることが嬉しかった。なんだか涼の中の特別みたいで。…違う。断じてそう意味ではない!
ただ、なんとなく、涼の中の特別でいたいなんて気持ちが漠然とあった。
「いや、俺は人付き合いはあんまり得意じゃない。ハルと優也と康平がいたらそれでいいよ。」
「そっか、ま、涼は無愛想だもんね仕方ないよね。」
「無愛想なのはほっとけ。自覚してんだ。」
涼は、こんななんでもないやり取りがつい数ヶ月前のハルとのやりとりのようでくすぐったかった。可愛いハルも好きだが、やっぱりいつものハルも好きだなと思う。後者は友愛として、だ。でも今は、そこに少し愛情も混ぜ込まれてる。完全に惚れちゃったなと涼は思ってしまった。
「ほら、暗くなってきたしそろそろ行くぞ。それでいいのか?」
「はーい! これでいいの、ずっと食べたかったんだ。」
大事そうにモンブランを抱えて、無邪気に笑うハルを見てつい頬が緩む。こんな顔見せてくれるならいつも買ってもいいなとすら思う。
「そんなに喜んでくれるなら、いつだって買ってあげるぞ?」
「えっ! いや、嬉しい。嬉しいんだけど、あんま食べすぎるとさ…ほら…」
「…え? なんだ?」
顔を真っ赤にして頬を膨らませるハル。それすら可愛い。
「もう! 言わせないでよっ! 大体涼はね、女の子の気持ちわかってなさすぎるよ。心配になるよ? そんなんじゃ。」
「んー? なら、大丈夫だろ。俺にはハルがいるからな。」
涼が何気なくそう言うと、ハルは「ふぇっ!?」といいながら狼狽えた。
「ど、どどどどどういう意味!?」
何故か顔を真っ赤にしてどもるハル。そんな変なこと言っただろうか。
「え…? いや、女の子の気持ちはハルが教えてくれるんだろ?って意味だけど…」
「へ!? あああああそうそう! うん! わかってるよ!!」
一人であたふたし始めるハル。なんだかよく分からないので、とりあえず落ち着くように頭を撫でた。
「あーっ! お前今私のこと子供扱いしてるだろ!」
……バレた。
こんにちは
最近はあまり腰を据えて小説を書くということができなくて一日一本守るので精一杯です許してください…
でも、いつも読んでくれる皆様のために頑張ります! というか、書いてて楽しいので頑張ります!
ここまで書いてきて思うのですが、小説を書くというのはやっぱり難しいなと思います。特にあの転生直後のみんなの心情表現とか、魔物の身体的特徴とか……いや、そんなシーンないか。
皆様の感想を是非お聞かせください! あと個人的に思うのは1話から文体すごい変わってね?ってことですありがとうございました!!




