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26.涼と優也

あらすじ

涼が歩み寄ってくれた。

 …寝覚めは最悪だ。正直、全く寝れてない。


 霞む脳内に、二人の横顔がチラつく。胸がムカムカして、そんな自分に嫌気が差すという悪循環に陥っていた。


 今日は木曜日。こんな気持ちで、ハルと優也のあんなところをまた見たら今度こそ自分が打ちのめされてしまいそうだった。

 ただ、もう逃げ癖を見て見ぬ振りをするのは、決して良くないんだろう。そんなこと、考えなくてもわかる。


 とにかく、喉が渇いた。喉の奥が張り付いて、不快感がある。今感じているこれは、何による不快感なのか。あまり考えたくなくて、そんな感情も全部ぐちゃぐちゃにして温い水で飲み下した。


 一度起こした体がどうにも怠くて、ベッドにもう一度横になった。「休んじまおうかな。」なんて、自分でも情けない一言が溢れる。優也、お前の言う通りだ。俺は逃げてた。今までも。たった今も。


「情けねえ…。」


 優也のにやけ顔がふっと浮かんだ。「なにやってんの? お前?」そうやって言う。…ああ、ムカつくな。このまんま逃げ続けても埒明かないもんな。


「ハル…。」


 無邪気な笑顔。物欲しそうな顔。…寂しそうな顔。


 男だったときは分かりにくかったが、確かに前からあんな顔をしてた。でも、どれも魅力的なものになっていて、俺はまんまとそれに惹かれた。本当に負けたのは自分だったのかもしれない。ハルに惹かれたことじゃない。ハルに拒絶されることを恐れた自分にだ。


 まず向き合わなきゃいけなかった。自分と。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 講義室へ向かう足取りは重い。まぁ、軽いわけはない。自殺しにいくようなもんだ。いい気分で自殺する奴もいないだろう?

 でも、ずっと現実から目を背けてきた自分を殺してやるには、いい機会なんじゃないか。


 心なしか、少し重たい扉を開ける。


「よう、来たんだな。」


 ドクン、と心臓が跳ねた。視線の先には片手を上げてこっちを見ている優也。ハルは…いない。まだ来ていないのか。


「くく。ハルだろ? あいつはまだ来てない。この時間に来てないってことは寝坊だろうな。根っこはバカ真面目なあいつが、サボったりするわけない。」


 あっけらかんと言いのける優也。その言葉に対して、彼氏はなんでも知ってるって訳かと、ドス黒い感情が生まれた。すると、じっとこちらを、見つめている優也と目があった。


「…ふっ。」


 すると、優也は吹き出すように笑った。なんなんだ、一体。


「涼、お前なに考えてるか分かりやすすぎ。大方、なんでも知ってるなとかそんなこと考えてたんだろ?」


 …図星だ。ぐうの音も出ない。


「そんなこと考えなくたって、あいつが真面目でいいやつだってのは、お前の方が知ってるんじゃないのか? 涼?」


 …そうだ。俺だって知ってる。ハルが、何となく来たくないからサボる、なんて考えるやつじゃないってことくらい。なのに、俺は今、そんな小さいことに嫉妬していた。


「ま、正直、昨日のことはほとんど思いつきだ。あれを見て、涼はどうするのか…逆上してやる気出しちゃうのか、それとも怖気付いて小ちゃくなっちゃうのか。…まあ、俺個人としてはどっちでもよかったんだけど、お前の感じ見てるとどうやら、後者だったみたいだな?」


 ああ…こいつに隠し事は出来ないんだろう。俺は確かに、昨日のことを見て、完全に怖気付いた。ハルを奪い取ってやろうとは、思えなかった。それはハルのことを考えてなのか、それともそれを言い訳にしたかっただけなのか…。


「なぁなぁ。」


 そんな涼の思考を遮るように優也は口を開く。


「お前はそんなくだらないこと考えてる場合なのか?」


 頭をガツンと殴られたような気がした。


「お前ほどあいつを知ってるやつは他にいるのか? ハルが今、誰に一番傍にいてほしいか分かってんのか?お前が今一番考えなきゃいけないのは、自分のことじゃないだろ?」


 呆れた顔のまま、表情を全く変えないでつらつらと捲したてる優也。ただ、全てが正論でなにも言い返せず、ただ黙って聞いていた。


「ハルを困らせたくない。迷惑かけたくない。気持ちは分かるよ。その気持ちは否定しない。だけど結果はちゃんと見ろ。お前のその行動は、本当にあいつを困らせてないのか。傷付けてないのか。」


 その言葉は確実に、的確に涼の心に刺さっていく。


「取り返しがつかなくなったら終わりなんだよ。そこでようやく気付いたっておせぇんだぞ。どうやら、今回のお前はそうだったみたいだがな。」


 そうだった、というのは取り返しがつかなくなった。ということだろう。実際そうだった。もう二人は手の届かないところへ行っていた。


「…その顔を見ると、まだ気付いてないのか。ったく、いちいち言わせないでくれ。あれは涼にそう思われるよう俺が仕向けただけだ。キスしてたとか思ってるんだろうが、一切してない。大体、ハルは俺のことを友達だとしか思ってない。」


 むしろそれがわからないお前が怖い、とまで言われた。それに驚くと同時に、卑怯にも、安堵している自分がいた。ハルはまだ手の届くところにいると。


「いきなりそんな安心されても困るぞ…。なんのためにお前にそう思わせたか考えてくれよ? それに、こっからはお前次第だ。まあ…頑張れや。…そうそう、今日はお前がハルを送れ。俺は用事あっからさ。帰るまでには腹決めろよ。」


 んじゃ、と言いながら優也は席を立つ。俺はその背中に、何一つ言えなかった。ただただ真実を、俺が無意識に目を背けていたことを嫌でも目の前に突きつけてくれた。そして優也は、俺の腰抜けなケツを引っ叩いてくれた。


 …そしたらもう、やることは一つだろ。



 一限が終わってからしばらくして、ハルはちゃんと大学に来た。「め、めっちゃ焦ったぁ。」なんて言いながら、眩しい笑顔を見せて。


 何故だかその時、自分はとってもくだらないことで悩んでたんだな、と思った。だからかもしれない。俺は思ってたよりすんなり、帰ろうとするハルに声をかけられた。



「ハル、ちょっと、いいか?」 


 俺の声に反応して、ビクッと体を震わせて恐る恐るこっちを見るハル。


「…えっ? りょ、涼…?」


 口元がヒクついてる。優也に話を聞く前なら、嫌がってるのかもしれないとネガティブな感情を持っただろう。

 でも、今なら分かる。俺が歩み寄ってくれたことが嬉しくて仕方ないんだと。にやけてしまいそうで、止まらないんだと。



 …いや、可愛すぎるだろ…。

これからみなさんにらもっと砂糖を吐かせていきたいなぁと思います。ただ、あんまりダラダラと展開を長引かせることはあまりしたくはないので、ほどほどに?そこは私の気分次第になりそうです₍₍(ง˙ω˙)ว⁾⁾


感想いっぱいください! モチベーションが爆上がりします✧◝(*´꒳`*)◜✧˖

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