24.涼
あらすじ
誰かが穏やかじゃないです。
天井を見上げる。頭がひどく痛む。どうしてこんなに憂鬱になっているんだろうか。
ハルは優也を選んだ。たったそれだけなのに。なにがそんなに不満なんだ。
それに、俺はハルを守るなんて言って、結局逃げていたんじゃないのか。…ハルを理由にして。
『水瀬…だよな? お前、あの瀬川さんとどういう関係なんだ?まさか本当に付き合ってるわけじゃないよな?』
ふと、あのとき他の学科のやつらに言われた言葉を思い出す。すぐに分かった。ハルと付き合ってるとみて、やっかみをいれてきていると。
ただ、ハルは男を恋愛対象として見ていない。そいつらに言い寄られても困るのは目に見えていた。
それとは別に、俺はこうも思っていた。俺が彼氏なんて、ハルは望んでいない。と。
俺はあいつの親友。それ以下でも、それ以上でもない。別に俺も、それ以上は望んでなかった。
…確かにすごく…可愛いし、防御も薄くてこっちはひやひやするが…それでも、ハルとの関係を壊すようなことはしたくなかった。ハルは、こんな無愛想な俺とずっと一緒にいてくれた、たった一人の親友だから。
「ハルは別に、男と付き合おうとは一つも思ってない。もちろん、俺とも。だからそれは、根っこのないデマだ。…あと、そうだ、あんまりハルのことは困らせないでやってほしい。」
だから、俺はあいつらにそう言った。ただ、実際は「俺とも」と言ったときからあまり話は聞いてなかったように思う。
その後、ハルに会った時は、正直辛かった。
ハルの無邪気な笑顔と、周りからの視線。これ以上、ハルと俺が付き合っているなんてことになって、ハルを困らせるのはごめんだった。
…ただ、俺のあの時の行動は、やっぱり間違いなんだったんじゃないかと、後から思った。
あのときの寂しそうななんとも言えないハルの表情を、この二週間ずっと覚えてる。頭にこびりついて離れない。
ただ、もう、俺に後戻りはできなくなってた。
次の日からはもう、ハルから声をかけてくることはなくなって、優也といるところが目に付くようになった。
優也が毎日、わざわざ帰り道とは反対のハルを送って行ってたのも知っていた。
…講義中、後ろの方でこっそりハルの頭を撫でているのも。その時のハルの顔は満更でもなさそうで、少し悔しかった。
ハルの頭を撫でている優也と度々目が合ったが、反射的に目を逸らしてしまった。
こんなことを友達に対して思うのも変だが、俺は確かにその時思ったんだ。
ーーー負けたんだ。って。
何に対してかは、はっきりはわからない。ただ漠然と、二人がもう、自分の手の届かないところにいるような気がした。
…いいじゃないか。優也と付き合えば、仮にSNSで取り上げられたって、そうだと胸を張って言える。他の奴から言い寄られることも格段に減るだろう。
…なのに、胸が苦しい。
あの時、確かに、優也は俺を見た。そして、俺に目で言ったんだ。
『そこで見ていろ。』
そして、優也は、目を瞑って顔を向けているハルに、顔を近づけた。
その場所からはハルの表情が見えなかったが、俺からはどう見てもキスをしていた。その時、体の中の血が全部抜け落ちていくような錯覚を覚えた。
そのあとの二人は、顔を近づけて笑いあっていた。その姿は、誰がどう見てもカップルで…。
最後に、二人並んで笑いながら講義室を出て行く二人の横顔が、いやに脳裏に焼き付いていた。
ーーーそう、俺は逃げ出したんだ。ハルに、「涼とじゃなぁ」と言われるのが、怖かったんだ。
俺は確かに、ハルと親友以上の関係は望んでなかった。
…そのはずだった。
俺は、優也に思い知らされたんだ。あのどこまでも見透かすような瞳で。これが、『お前が逃げた結果』なんだと。
そう、気付いたときにはもう、遅かったんだ。
今になって数年前に買った小説が出てきたのですが、その小説は最後でTSしてました。
私はその頃からTSが好きだったんでしょうか…?
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