21.いらない告白
あらすじ
おや、涼の様子が…?
「ちょっと、トイレ行ってくるね…」
「おう、いってら。」
優也に声をかけると、軽い調子で返事をしてきた。無理をしているな…と、自分でも分かった。一緒にいたいっていう思いを、涼にやんわりではあるが、断られたのだ。
それに、口ではなんでもないって言っていたけど、とても気まずそうな顔をしていた。それが、すごく引っかかった。
「はぁ…。」
思わずため息をつく。なにがそこまでショックなのかは、自分でもわからなかった。これまでほとんど一緒に学校で過ごしてきたが、それぞれ違う友人もいる。決して四六時中一緒にいたわけじゃない。なのに…。
考えれば考えただけモヤモヤする。濁流のように、嫌な気持ちが頭に渦巻いている。
シャーッ、と誰もいないトイレに、水道の音がいやに響く。ハンカチで手をよく拭いてトイレを出ると、一人の男の子が立っていた。確か同じ学科の子だったが、名前は…なんだったかな。
その子はどうやら自分を待っていたらしい。トイレに行く時付いてきたのか…。そうまでするのだから、なんらかの用事があるんだろう。
「えっと…私に何か用…かな?」
「あの、ハル…さん。」
なんだろう、すごい真面目な顔してる。そんなに大事なのかな。そんな風に考えていたハルだったが、
「好きです!俺と付き合ってください!」
この言葉には流石に面食らった。
「え、えぇ…」
「一目見てから可愛いなって思ってて、笑った顔とか!ほ、他にも!」
必死で好きなところを並べ立てる彼。なんだかくすぐったい感覚がした。でも、男と付き合うって、やっぱりわかんないなぁ…。
「え、えーと…でもさ、ほら、私元々男だったし…?そういうのってどうなのかなーっ…て。」
「俺はハルが元男だとしても、好きだ!」
なんかヒートアップしてきちゃったよ…。さっきまでハルさんだったのに…。いや、自分でハルって呼べって言ったから、いいんだけどね…?
「うーんと、私としては、やっぱり男と付き合うってあんまり考えられないんだ。そりゃあ、一生独り身も寂しいかもだけど…んー、でもやっぱわかんないんだ、ごめんね。」
精一杯、相手を傷付けないよう努めて、窘めるように言った。それに対し、目の前の彼は悔しそうに顔を歪めて言った。
「でも…あいつなら…水瀬なら…いいのか…?」
「…は?」
まずいまずい、素が出るところだった…。抑えなくては。ていうか、今なんて言った?涼ならいいのかって? いいわけあるかーっ!!!
「ん、んーと?なんで涼ならってことになるの?」
「だ、だって!あんな仲良さ気に手を繋いで歩いてるなんてっ!」
ああ…またあの写真か。ほんと、勘弁してほしい。そんなつまらないことでいちいち騒ぎ立てないでほしい。
ハルは少しイラッとした。そんな一部を切り取っただけのもので、なにを必死になっているんだと。
「あれはただの写真でしょ?私たちはただの親友。それ以下でも、それ以上でもない。…もういい?講義終わっちゃうよ。」
この時、自分が苛立ちと呆れをまったく隠せていないのを自覚していた。…だって実際苛ついてたし。こっちは涼と居られなくて傷心気味なんだ。くだらないことを言わないでくれ。
「じゃ、じゃあ…水瀬と付き合ってないなら、俺と…」
…しつこい男って言うのは見苦しいだけなんだな。よーっくわかったよ。
「無理だって。そんなに何回もフラれたいの?」
そんな女々しい彼をバッサリ切り捨て、ハルは脇目も振らずに講義室へ戻った。なんだかとっても疲れた。今日は厄日だ。
隣を見ると、頬杖をついてつまんなそうに講義を聞いている優也がいる。こいつになら、適当に言葉を投げても適当にあしらってくれるだろう。そんな思いで、なんとなく言葉を放った。
「なあ優也…、男ってさ…めんどくさいな。」
「…じゃ、お前も大概めんどくさいな。」
はは、言えてるかも。こいつに適当に言葉を投げとけばスッキリする。もう寝よう。少し疲れた。
そのまま眠りについたハルに、「もうあと30分で終わるぞ…」とぼやきながら、自分の上着をハルにかけてやる優也は、まさしくイケメンだった。残念な、という修飾が付くが。
優也は、ハルが起きないように人差し指で頬を撫でた。あどけない表情で眠るハル。…講義中だけどな。優也はため息を一つ吐いて、もう一つぼやいた。
「…このままでいいのかよ。涼。」
優也くんにはこれから活躍していただきます!
康平は忘れてるわけじゃないんです!!今日は外せない用事がぁ!!あるんです!!!
短編「雨のち晴れ」を投稿したので、よろしければそちらもご覧ください(*゜Д゜*)
こちらはまったくTSとかないですが、悲しい中に優しさのある世界を作れたと思います。
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