20.通じぬ気持ち
あらすじ
これから波乱の予感…?
「ふぁーあ…。」
だらしなく口を開けて、大きく欠伸をするハル。
「ハル?あんまり女の子がそうやってやってるとだらしないよ?」
「うーん、そうなんだけどね。なんだか眠たくって。」
ぐっと背伸びをするハル。そして強調される胸。集まる視線。撒かれる愛菜の殺気。
現在二人は歩いて大学へ向かう途中。二人の美少女が並んで歩いて談笑していれば人の目も引く。
「今日は、水瀬くんとあんまりイチャついたりしたらダメだよ?」
「ぐ…」
本人としてはイチャついているという気持ちはない。しかし、あの写真を見たらなんとも言えなくなってしまった。…だって、どう見てもただのバカップルだったもん。
「ま、せいぜい気をつけなよ?ハルはただでさえ距離感近いんだから。」
「私に近づかれたところで、どうも思わない人が大半じゃないのかな…。」
そう言うと、愛菜は呆れた目を向けてくる。な、なんだよその顔は!!
「はぁ…ま、いいわ。ああっと…あたしこっちだから、またね。」
「あ、ありがとね。また。」
お互いに手を振り合って別れる。
ひとまず今日の講義室はっと…。うわ…結構歩くなぁ。うーやだやだ。
少し憂鬱な気分になりながら歩いていると、少し遠くの方に涼を見つけた。4人くらいで話し込んでいるが、遠くなので内容は聞こえない。それよりも…
「…誰だ?あの3人?」
全員知らない人である。つまり、同じ学科ではない。涼は割と無愛想なところがあるので、あまり友達は多くないはずだが…。他の学科に友達なんてできたんだなぁ。少し感慨深く思って、せっかくの交流を邪魔しないようにと、すこし遠巻きに講義室へと向かった。
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「お、おはようハル!」「ハルちゃんおはよ!」「今日も可愛いね、おはよう。」
と、講義室に入るなり口々に言われた。男だったときはこんな風にやたらめったら挨拶されることなんてなかったから、少し怖い。
「あ、うん…みんな、おはよう…?」
頬を痙攣らせながら、精一杯笑顔を作って挨拶を返す。すると何故か空気が緩んだ。ほんとになんでだ。
あんまりにも周囲の視線を感じるので、縮こまりながら、ニヤニヤしている優也の隣に座る。
「な、なんなのこれ…?なんか怖いんだけど。」
辺りに聞こえないように、優也に小さく耳打ちをする。
「それだけハル様にお近付きになりたいってことだよ。」
「えぇ…私なんかと仲良くなって、なんかいいことあんの…。」
優也は、顎に手を当て、「んー」と唸った後言った。
「まあ、俺はハルがいいやつだって皆に知れるなら嬉しいけどな。」
と、眩しいイケメンスマイルで言ってきた。
うん、お前の方がいいやつだよ。好きだ。
すると、ざわざわと部屋がにわかに騒がしくなってきた。ふと入り口に目をやると、ちょうど涼が入ってくるところだった。
「あ、涼!」
立ち上がって涼のところまで行く。さっきはチラと見ただけだったが、あの夜からなんだか無性に会いたくなっていたらしい。無意識に涼のもとに駆け寄っていた。
「お、おう。おはようハル。」
なんだかぎこちない返事を返す涼。どうしたんだろうと思ったが、ひとまずそれは頭の片隅に置いておいた。
「おはよ、涼!待ってたんだよー。」
そう言って無邪気な笑顔で涼の服の裾を掴むハル。その行動に周囲から、
『や、やっぱりそうなのかな…』『あの野郎…』『羨ましい…』
と言った声が聞こえたが、その言葉の意味はよく分からなかった。ここまできてハルはまだ、自分が女の子として見られていることを理解していなかった。
「さっき他の学科のやつらといたの見たけど、友達?いつのまにそんなに交友広げてたんだよ涼のくせにー!どんな話してたんだ?」
「いや……大したことじゃない。」
妙な間を空けて、涼は言った。
「今日は、さ。一人で集中したいから、ハルはあいつらと居てくれ。」
「えっ?な、なんで…?」
「そんな顔するな、別に理由なんてないから。なんとなく、そういう気分なんだ。」
「わかった…」
思ったより残念に思っている自分がいた。とぼとぼと歩いて、優也の隣に座る。なんだか、今日は頑張れる気がしない。ちら、と少し遠くに腰を下ろした涼を見て、ため息を一つ。
なにをそんなに残念に思っているのか、自分でもよくわからなかった。とにかく胸が苦しくて、それから逃げるように机に伏せて目を瞑った。
顔を伏せてしまったハルを横目に、優也はスマホを開いていた。表示されているのは、ハルと涼のツーショット。静かにため息をついて呟く。
「はー…。そういうこと、ね。」
これから少しずつ二人の間に動きを出していきます!
それとは別ですが、短編「雨のち晴れ」を投稿しました!そちらもご覧いただけると嬉しいです!
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