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17.もう少し

あらすじ

涼がハルを怒らせちゃった。

 ヘソを曲げたハルは、ぷんすこ怒りながら涼と待ち合わせ場所へ向かった。もちろん手は繋いでいない。ハルは頰を膨らませてそっぽを向いてしまっていたからだ。

 既に待ち合わせ場所にいた優也はこちらに気付くと、「おう。」と軽く手を上げてからいつものニヤけ顔になった。


「なんだなんだ?痴話喧嘩か?仲が良くてよろしいことだね。」


「ふんっ、涼に痴話喧嘩なんてできないよ。なにせ彼女が出来ないんだから。」


 腕組みをしながら涼を睨みつける。人が珍しくちゃんと感謝したら「似合わない。」だって!?デリカシーなさすぎだろ! そりゃ、自分がそういうキャラじゃないなんてわかってるけどさ…少しくらい…少しくらい…なんかこう…アレでもいいんじゃないか!?

 少しくらい。とは思ったが、何が少しくらいなのかわからなくてムシャクシャした。ただ、なんか嫌な気分だった。


「ごめんなハル。なんか奢ってやるから機嫌直してくれよ。」


 涼がそう言うとハルは再びキッと涼を睨みつけた。目を吊り上げて涼を叱りつける。


「涼!女の子を金で釣るのは絶対やっちゃダメだぞ!私が『男だった』としてもやっちゃダメだ!」


「ご、ごめんな。じゃあどうしたらいい?」


 困ったように眉を下げる涼と、「自分で考えろ!」と意固地になっているハルを見て、優也はやれやれといいながら提案する。


「じゃあ、お詫びに涼がハルを家まで送ってやるっていうのはどうだ?まだ暗くはないけど、もう解散するしそれで許してやれよ、ハル?」


「む…仕方ない。優也に免じて、それで許してあげるよ。」


 そうして、今日は涼がハルを家まで送る運びとなった。まだもう少し、彼女役は続くみたいだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その後ハル達は近くのファミレスで他愛もない話をした。特に優也から、ハルが女になってからの話をよく聞かれた。下着はどうしてるだの、月のものはきただの、ほぼセクハラ紛いの質問でハルはまた口を曲げた。

 気づけば日は落ち、明るかった空は、一面赤く染め上げられていた。


「思ったより遅くなっちゃったな。ま、でも、送っていくにはいい時間だったんじゃないか?」


 ニヤッとしながら問いかける優也。


「送り迎えにいい時間もなにもあるわけないでしょ。ほらほら、優也はさっさと帰った帰った。」


「へいへい、邪魔者はさっさと退散しますかね。また明後日な、お二人さん。」


 優也はおどけたように肩を竦めて、軽く手を上げて駅へ向かっていった。こういうところの所作はイケメンそのものなのにな…なんてハルが失礼なことを考えていると、後ろから声がかかった。


「あんまり暗くなる前に帰るぞ。」


「ん、おう。」


 軽く答えてハルは涼の少し後ろについて歩いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 私たちはそれぞれ一人暮らしで、元々の地元はここらではない。そして、どうせよく遊ぶんだし。という理由である程度住んでいる場所はお互いに近い。

 とはいえ、ハルが男だったときに送ってもらうなんてことはしてもらったことはないので、なんだか妙に緊張した。

 ちなみに、まだ涼とは一言も話せていない。この微妙な距離感と空気が、本当に付き合いたてのカップルのようで奇妙な感じがしたからだ。…まあ悪くはなかったが。やっぱり男と付き合うっていうのは抵抗あるなぁ、なんて。

 もし、自分が女子に変化しなかったらこうはならなかったんだろうな。と思う。そういえば、涼も私が女子になったことをすんなり受け入れてくれたけど、どう思ったんだろう…?

 気になると、少し不安が募ってきた。私たちは、このままずっと親友で居られるのかな、と。だから、閉ざしていた口を無理矢理開いて聞いてみた。


「ね、ねぇ、涼?涼はさ、私が女になってるって知って、どう思った?」


「なんだ、急に。」


「いいから。」


「…いや、特に何も思わなかったよ。メールだけだったら半信半疑だったけど、実際会ったら、ハルなんだな、としか。」


 涼はこの時、少し嘘をついた。本当は、顔を真っ赤にして敬礼するハルが可愛かった。でも、ハルはそんな言葉は望んでないと思ったから、そっと胸の奥にしまっておいた。


「そっか。」


「ああ、そうだ。」


「…涼は、さ。『俺』、こんなんになっちゃったけどさ。ずっと親友で、いてくれるか…?」


 心配そうに少しうつむきながらそう呟くハル。なんでそんなことを、と思ったが、それもそうかと思い直した。朝起きたら自分の性別が変わっていた。字面だけなら簡単な事象だが、そこには苦労なんて言葉じゃ足りないほどの負担がかかる。

 周りの目は変わり、好奇の目を向けられる。それはある意味、動物園の檻の中のような閉塞感がある。


「…俺が守ってやらないとな。」


思わず小さく呟いてしまった。


「え?なんて?」


「いいや、なんでも。親友でいてくれるかって話だったな。聞くまでもない話だと思わないか?」


 隣にいるハルに笑いかける。その時のひどく優しい笑顔を、ハルは忘れられなかった。


「…ね。手、繋いでもいい?」


 急に人肌が恋しくなってしまった。安心したからだろうか。ただ無性に、体温を感じたかった。

 何も言わないで差し出された手。そっと触れると、その手はあったかくて、大きかった。今思えば私は、この時から少しずつ恋をしていたんじゃないかな、なんて思ったり。この時はまだそんな事は思っていなかったし、考える余裕もなかったけど。

 お互いに黙って二人歩いた。ただ、言葉を交わさなくても、涼の手から伝わってくる体温が私を安心させてくれた。そうしているといつの間にか、ハルのアパートまで着いていた。


「…それじゃあ、また明後日な。」


 そう言って、手を離そうとする涼。ハルはその時、無意識に思った言葉が口を突いて出ていた。


「…も、もう少し、このままで…。」


 どうしてそう思ったのかはわからない。ただ、この手が心地よくて、私はここに居ていいんだって思えて。どうしてかまだ、離したくなくて。


「…いいよ。」


 そうやって涼は私を甘やかすもんだから、私はしばらくの間、もう少し、と駄々をこねた。

 赤く染まっていた空には、今では星が浮かんでいた。

登校初日終了です!

当初の予定より少し長くなってしまいましたが、まあ問題ないでしょう!


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