16.前言撤回
あらすじ
涼くんちょっとドキドキ。
カップをゆっくり持ち上げ、おもむろに口元を近づけズズッ…とすする…。キャラメルの甘さとコーヒーのほろ苦さが上手く舌で絡んで…
ーーあぁ…キャラメルマキアート…さいっこう♡
ハルはキャラメルマキアートを飲みながら言い知れぬ多幸感に浸っていた。
このキャラメルの甘さとコーヒーのほろ苦さが絶妙…。これを考えた人は天才だね。アインシュタインとかよりも天才だよ。
そんな、些か過剰な評価をキャラメルマキアートに下していた。
「お前、そんなにそれ好きだったか?」
ブラックコーヒーを飲みながら、涼は不思議そうに尋ねる。
「んにゃあ…?男のときもそこそこ好きだったけど、女になってからすっごく美味しく感じるんだよねー。」
理屈は分かんないんだけどさ。と付け足す。
なんというか、甘いが美味いに直結している。身体が糖分を欲しているのか。…太んないようにしないとな…。
現在ハル達はス○バで小休憩中だ。ちなみに、約束の集合時間まではあと30分ほどある。
「涼は見たいところとかないの?今は彼氏さんだし、付き合うよ?」
にしし、と笑いながら問いかけるハル。そんなハルを無視して涼は思案する。ハルの言葉に対しての反応を見たいだけなのが丸わかりだからだ。
「うーん、やっぱり特に行きたいところはないな。ハルが決めてくれ。」
「はー?優柔不断なんだからまったく。ま、このハル様は優しいから許してあげるよ。じゃあ私の行きたいとこいくよ!」
そう言って涼の手を取るハル。ハルとしては、涼と手を繋ぐのは許容範囲なので特に抵抗もなく握ってしまう。
「はいはい、ついていきますよハル様。」
「よろしい!では行くぞ!」
こんな我儘言えるのも、涼くらいだな。とハルは密かに思った。
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「おー、この髪留め可愛いなぁ。」
着いたのはアクセサリーショップ。それも女の子のものが大多数なので、涼は肩身が狭そうにしている。そんな様子を見たハルは、苦笑しながら涼に耳打ちした。
「私にくっついてなよ。そしたらカップルっぽくは見えるからさっ。」
「いや、そういう問題じゃないだろう。俺は外で待っててもいいか?」
「な、なんでよ!今は彼氏なんだから一緒にいてもいいでしょ!」
小声で言い合う二人。実は、ハルもここに一人でいるのは少し恥ずかしい。つい先日までは健全な男の子だったのだ。しかし、女の子になってから、心までだいぶん変容してきているようで、可愛いものが欲しくなっている。実際、今手に持っている髪留めは可愛い。控えめに言って、欲しい。
うーーー。と唸りながら髪留めを見つめるハルを見て涼は呟いた。
「それ、そんなに気に入ったなら買ってやろうか?」
「え!いや、それは嬉しいけどさ…流石にちょっと申し訳ないっていうか…。」
確かに、勢いで彼氏彼女なんて言ったがそこまでしてもらってはなんだか悪い気持ちになってくる。そこまではいいよと首を横に降る。
「そうか、じゃあそろそろ行くか。」
「ん、おう。そうだな。あ、でもその前に、トイレいってもいいかな?」
今から集合場所に戻るとしても、まだ5分ほど時間は残ってる。急いで行けば間に合うだろう。
「ごめんな、涼。ちょっとまっててくれ。」
「気にすんな。ゆっくり行ってこい。」
そう言って見送ってくれる涼。なんだか、本当に付き合っているみたいで少しこそばゆかった。いや、男と付き合うとかはないんだけどね?
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「ふぃー、スッキリしたぁ。」
持参したハンカチで手を拭きながらトイレを後にする。俺は今まで、トイレで手を洗ったらズボンやらで適当に手を拭いていたのだが、愛菜いわく、女の子でそれは駄目らしい。必ずハンカチを持参するようにとキツく言われた。
「おう、おかえり。」
「ごめんなー。おまたせしました!」
すると、涼はニコリと笑って小さな包みを渡してきた。
「な、なんだこれ?」
ハルが困惑しながら尋ねてみると、涼は「開けてみろ」と言う。渋々包みを丁寧に開けて中を確認してみると、そこにはさっき欲しがった可愛い髪留めが入っていた。
「お、おま! これ私がトイレ行ってる間に!? いいって言ったのに!」
「それは俺がハルにあげたくて買ったんだ。いらないっていうなら返品してきてくれ。」
事も無げにそう言いのける涼。で、できるかそんなこと!と心で叫んでから気づく。俺に気を遣わせないようにそうしたんだと。やっぱり、俺が彼女役なんてやる必要なかったなと思った。
「…ありがと。大事にする。」
しおらしくお礼を言うハルに、涼は表情を崩して言った。
「ハル、お前そういう態度似合わないな。」
「なんだとこら張っ倒すぞ。」
ハッ!いかん、素が出てきてしまった!
もう怒った前言撤回だ。こいつには一生彼女はできない!!!
登校初日の話なんですが、少し長くなってしまいました。次で一応終わる予定です。
この二人はもうしばらくこのままで愛でたいな…そんな気持ちがあったりなかったり…。
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