12.愛想と愛嬌
あらすじ
盗撮されてた。
「あ、あの、瀬川…さん。」
学内SNSの影響はすぐに出た。同じ学科の少し気弱そうな男子がスマホ片手に話しかけてくる。
てかこの人、俺が男子だった時も話したことあるよな…。その時はハルって呼んでくれっていった気がするんだがな…。
ハルの交友関係は広い。外面が良く、彼女がいる期間も長いため、人の気分を察しやすく気が効く。そんなハルはあらゆる人に受け入れられた。ただ、この三人が特に仲が良いというだけである。
「これ、瀬川さん…だよね?」
と、例の写真を見せながらおずおずと切り出してきた。正直、あまりこの写真は見せられて良い気分のするものではない。ぶっちゃけただの盗撮だ。不機嫌がそのまま出てしまい、ぶっきらぼうな返事になってしまう。
「ああ、うん。私だね。それがどうしたの?」
「いや、なんか、あの瀬川さんなんだ…って。ちょっとびっくりしちゃって。」
「そうそう、これがあの瀬川さんだよ。ていうか、瀬川さんってなんだかむずむずするから、ハルって呼んでくれない?その方が嬉しいな。」
と言いながらぎこちない笑顔を見せた。…ううん、うまく笑えてるかな。そんな気持ちとは反対に、目の前の男子の顔はパアッと明るくなっていく。
「じゃ、じゃあ!ハル…さんっ。」
「ええと…別にさん付けじゃなくってもいいんだよ?普通に…ハルって呼んでくれないかな…?」
このとき、ハルは全く意識していないが、座っている状態で立っている人に話しているので、完全に上目遣いでねだるような形になっている。当然、男子校同然の環境で過ごしてきた男には刺激が強すぎた。
「は、はいっ!」
顔から火が出るんじゃないかというほどに顔を真っ赤にして大きな返事を返してきた。そんな仰々しい態度に、ハルは思わず苦笑してしまう。
「くすっ…そんなにかしこまらないで?私が男子だったときみたいに接してよ。」
そう言ってニコリと笑う。彼にとってそれはとどめの笑顔だった。天然ほど怖いものはない。
「はぃ…」
沸点を超え、頭から煙を出しながら辛うじて返事をする男の子。語尾が小さく掠れ、『い』はほとんど発音できていなかった。
「あ、あれは…天然のたらしだ…。」
傍で見ていた優也は、ハルに聞こえないよう呟く。それを聞いていた涼は静かに頷いた。渦中の本人は、慌てて去っていく男の子を見ながら「どうしたんだ?」と不思議そうにしている。
ハルはいつのまにか、人当たりがよくて愛想の良い男子であったのが、愛嬌を振りまいて男の心を奪う魅力的な女子になっていた。
そして、その様子をチラチラ見ていた他の男子たちも集まってくる。
「瀬川さんっ!俺も、ハルって呼んでいいかな?」「お、俺も俺も!」
なんだか凄い勢いで押し寄せてきた…。ていうか皆前まで普通にハルって呼んでたじゃん…。急にかしこまらなくていいのになぁ…。
「もう、皆私のこと前までハルって呼んでたでしょ?今更瀬川なんて呼ばないでよ。なんか…寂しいじゃん。」
へへっ、と照れ臭そうに笑うハル。
なんとも庇護欲をそそられる人懐っこい笑みに、男子達は一瞬で心を奪われてしまった。絶句したまま固まる男子たちに、ハルは首を傾げた。
すると、隣からちょんちょんと肩を叩かれた。なにかと思えば、涼が変な顔をしてこちらをみていた。
「え、どしたの。変な顔して。」
「お前はもう少し自分の可愛さを理解した方がいいぞ。」
なにを変なこと言ってるんだ…大体、いくら可愛くても『男だった』俺をそういう目で見る奴がいるわけないだろ…。『女』として生きていくとは決めたけど、外見が女になったくらいでお前…。
「なに言ってんの涼。涼に言われても、気持ち悪いだけだよ?」
と、おどけた顔をしながら自分の身体を抱いてみせる。すると、コツッと額を小突かれた。
「あうっ。」
「誰が気持ち悪いだ?誰が。」
「あははっ! ひはひほー! はめへほぉ!」
ハルの鼻をつまむ涼と、もー!と笑いながら抵抗するハル。これが男と男ならなんてことはない、ただの悪ふざけなのだが…いかんせん、周りからはイチャイチャしてるようにしか見えなかった。
「お前らさ、無意識なのか知らないけどイチャつくのやめろよな…。」
小声で呟いた優也の言葉に、その場にいた全員がゆっくりと首を縦に振るのだった。
正直、幼馴染という展開はあまり好きじゃありません。ありきたりすぎて。
でも、ある意味とっても大事で、近い存在というものが欲しかったので、高校以来の親友ということに…
ここまで書いてきて少し悩んでいることは、ちょっとハルのキャラクターがブレていないか?というところですね。見返してはいるのですが、1話から、文の書き方を変えたせいでいちいち最初から読み直してブレがないように頑張ってます。
でも、とりあえず皆さんにあったかいなにかを届けられればいいなと思います。
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