11.有名人
あらすじ
敬礼した。
「ぐぁぁ……やっちまったぁ………」
口から魂が出ている気がする。なんで俺はあの時咄嗟に敬礼してしまったんだ…。
ガイダンスも終わり、いつものように俺たち四人で駄弁っている。
「くくく、でも可愛かったぞ?ぴしっと敬礼してさぁ。」
ちなみに、この学科の人間にはそれぞれ大学側からメールが送られており、今日から瀬川 葉輝は、ハルという女の子として過ごすという旨が伝えられていた。なので、比較的簡単に女として受け入れられたのだが、なんでそんなので皆して納得できるのかよく分からなかった。なのでハルは考えることはやめた。この世の中には理屈じゃ説明できないことがある。自分の身体みたいに…。
ちなみに生徒それぞれの心理としては、工業系の大学であるここは、ほとんど男子校のようになっており、そこに女子が増えるという事実に歓喜して異常事態もすんなり飲み込んでしまった、という男の悲しい性がある。
「やかましい。お前に可愛いとか言われてもなんにも嬉しくねぇ。」
けらけら笑いながら俺に話しかけてくる優也。優也とはこの大学に入って初めてあったが、中々どうしてウマが合う。そしてイケメン。身長が高くて髪型も気にしていつも身綺麗にしている。なのに彼女がいない。この猿にすらいるのにこのイケメンには何故かいない。
ちなみにスペックも高い。勉強は普段しないのでどのテストも平均程度だが、本当に赤点がやばいとなると勉強してきて平気で90点台を叩き出してくる。普段からやればいいのに、とも思うが、本人がいいからいいんだろう。
それだけではなく英語と中国語もぺらぺらである。幼少期に住んでいたんだとか…。就職が楽そうで羨ましいですよええ。
もちろん難点もある。なにかとスマホを弄ってはモデルや可愛い自撮り写真などを集めてきてニヤニヤしている。たとえイケメンでも気持ち悪い。そのまま「この子可愛くない?」とか俺とか涼に振ってくるが、いかんせん二人ともそこらへんはよく分からない。だからこいつには彼女がいないんだ、というのが涼との共通認識。
「やっぱハルだなー。いくら見た目可愛くても、良いとは思わない。」
な、なんだと?そんな挑発をされたらこっちもムキになる。ハルは口元を歪めながらお返しに挑発した。
「ほーぉ?じゃあ私が本気で女の子らしくしても惚れないってことだな?惚れさせてやろうか?一生モンのトラウマ植え付けてやるよ…!」
そんな挑発をひらひらとした笑いで受け流す優也。いつものことだ。
「お前らやめろよ。くだらねーから。」
そして、呆れた顔をして涼が止める。これもいつものことだ。ちなみに康平はよくわからないといった顔をしている。お前はバカだからな。ずっとそのままでいてくれ。
しかしこうしていると、男のときと変わらなくて安心する。女になったことで、こいつらがどこかよそよそしくなるんじゃないかと恐れていたが、杞憂だったみたいだ。
「それよりハル、お前、もうすっかり有名人だぞ。」
ニヤニヤしながらスマホの画面を向けてくる優也。この顔は何か悪いことを企んでいる顔だ。この半年で嫌という程知った。嫌だなぁと思いながら、三人で液晶を覗き込む。
この学校には、学内SNSという、大学の生徒しか使えないSNSがある。名目としては学部学科を超えてお互いを知るということがあるようだが、あまり学校側からの管理はない。しかし匿名性はあるようで、投稿者の情報は何年生かしかわからない。
その学内SNSが表示されていた。そしてそこには一枚の写真が投稿されていた。
…これ、俺じゃん。
そう、俺。俺がここへくるまでの間に誰かからか撮られたのだろう。肖像権もへったくれもない。そしてそこについているコメントに、ハルは凍り付いた。
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re1.(3年)めちゃくちゃ可愛い
re2.(4年)こんな子いたっけ?俺は今まで見たことないから、一年か?
re3.(1年)自分もみたことありません。こんな子がいたら見逃すはずないです。
re4.(3年)誰か詳細求む。
re5.(1年)踏まれたい
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etcetc………
この下にもずらーっと『可愛い』『誰?』といった言葉が並んでいた。ハルは口がヒクヒクと痙攣するのを感じた。ていうか、今さっきここにいたやつがいただろ。聞かなかったことにしたやつがいただろ!
「あーあ、こりゃ大変ですね。ハルさんや。」
からかうように隣の涼が言ってくる。てめぇおい。そのニヤケ面やめろ。次やったら殴るぞ。ギリギリと歯を鳴らしながら復讐を誓うハル。
ひとまず、このハル探しはいつ終わるのか。それだけが心配だった。
今後の展開はだらーっと書いていこうかなと思っています。
正直、書くペースが早すぎて、ここで遅らせるとちょっと怖いなとすら思っています。
あおり運転、いくない。
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