98.
エレベーターホールで錦織と別れた後、俺達は何かする訳でもなく校内を彷徨った。
「で……どうする」
壱琉は目を伏せて、腕組みしながら行き先を問うてくる。
「行く当てが一向に思いつかないんだよなぁ……」
俺は両手を後頭部にやって、困り顔をしてみせた。
壱琉と行動を共にするなんていつぶりだろう。少なくとも数ヶ月は経っている。
「こうして活動するのは実に入学式ぶりだな」
「……そうだな。まあ、今思えば君を誘った事に心底後悔しているよ」
「はいはい、そうですか」
俺は壱琉の侮蔑をさらりと受け流した。こういう性格なのだ。もう慣れた。
他人行儀な距離感をもって歩く事しばし、ふと学校の館内フロア図が目に入る。
「もうこれホテルじゃねぇか……。なんなのこの学校。50階にBARとかあるんだけど」
俺は色分けされた各階を指差しながらごちる。壱琉は目を瞬かせると、さも当然のように言った。
「なんだ、知らなかったのか。僕はそこで毎度お世話になっているよ」
「お前なぁ……。こちとら金がねぇんだ金が。優雅な自慢は他所でやってくれ」
しっしと手で払うと、壱琉は微笑をたたえながら考えがあるように言う。
「金が無いのなら稼げばいい。アルバイトでもしたらどうだ」
「こんなヤベーやつを受け入れてくれるバイトなんてどこにあるんだよ……。それに部の活動が最優先だ。そんな時間はない」
壱琉はふむと顎に手をやって考える仕草をすると、
「部活動の一環として……資金調達だと思えばいい。この学校は部費以外に個人の資産を投入していい事になっている」
「やけに詳しいんだな」
俺は興味なさげに返答した。
「……まあね。いやでも覚えてしまうよ」
壱琉は先程は打って変わり、神妙な面持ちをしたかと思えば瞳を閉じ、困り顔をして誤魔化すように冗談めかした。
そういやコイツはあのキャピルンティーチャーの実の弟なのだ。綾崎先生の事だから、弟を可愛がるついでに、学校のことをアレコレ叩き込んでいるのだろう。




