97.
五つ目の交差点を右折して橋を渡った。
頭上には高校に勝るとも劣らない勝ち気なタワーマンションが見える。
「ではこの辺で。──また明日」
錦織は踵をかえした。
「錦織……」
「気にしないで。私、たまにネガティブになるのよ」
♢ ♢ ♢
翌日。さしも変わらない状況が続いた。
部活動の名前決めは、相変わらず譲らぬ攻防が続き平行線を辿った。活動方針も個々の思想がぶつかり合い、全然決まらない。
何これ……一体感ゼロじゃん……。まあ、よくよく考えれば特別候補生という異端児をまとめ上げる事自体、間違っているのかもしれない。ここは一つ、気分転換という名の仕切り直しをするべきだ。
俺は席を立って、機嫌の悪そうな二人をそれぞれ一瞥した。
「……こうなるだろうとは思った。よし、今日の部活はここでお開きだ」
「五時か……少し気が早いんじゃないか」
壱琉は腕組みしながら言う。
窓辺を見やると、外は未だ夕焼けには至らず、幾ばくか明るい。
「……」
一方、錦織は腕時計をチラチラ見ながら、何やら落ち着かない様子でいた。
「なんだ?トイレにでも行きたいのか?」
俺は素っ気なく錦織に話しかけた。
瞬間、キッとした鋭利な眼差しが俺を突き刺した。頬は朱に染まっている。……ごめんなさい。冗談ですよ。
錦織は言いにくそうな表情をすると、胸に手をやって言葉を紡ぎ始めた。
「実は今日……用事がありまして、早く帰らないといけないんです」
「なんだそういう事か。そういうことならもっと早く言ってくれ。丁度いい、アイデア出しも兼ねて、ちょっくら散策しようと思ってたんだ。人手が多すぎてもアレだし、用事があるならそっちを優先してくれ」
錦織は申し訳なさそうに、小さく首肯した。
「なるほど。では僕は午後の予定がないから"取り敢えず"夜崎に着いていくことにするよ」
壱琉は歯切れのいい口調で喋りながら、挑発的な笑みを浮かべた。取り敢えずっていうのは、いつでも退部できる可能性を示唆しているんだろう。
「……了解だ」
意思疎通が出来たところで俺達は三人揃って部室を後にした。




