96.
学校の目の前にある橋を渡った。
錦織は依然として俺の三歩先を行く。左手には橋と並列して架かるアーチ型の古びた廃線があった。彼女は横顔を見せると、その風景を見ながら一つぼやいた。
「私は特別候補生として不必要なんでしょうね」
自嘲し、消え入るような声で錦織は言った。その眼差しは錆びてただ佇む線路へと向けられている。
その弱々しさは酷く彼女に似つかない。俺は多少語気を強めて言った。
「……今更、なに言ってんだ。特別候補生は一クラス二人の一心同体、欠ければ何もできない」
一言一句本当の事だ。錦織小雪合という特別候補生がいなければ事件の解決も壱琉の入部も叶わなかっただろう。
錦織はそれを聞き得たのか無視したのか、否応なしに歩みを続けた。お互い無言のまま抜きつ抜かれつの奇妙な距離感を保つ。
橋を越えて大通りを直進すると、彼女は俯きがちに紡いだ。
「嘘ばっかり」
それは喧騒にかき消される中、僅かに聞こえた言葉。俺は即座に返答する事が出来ず、声を詰まらせた。存在を繋ぎ止めようと、俺は無理をして錦織に追いつく。
「……俺はつい先走る性格でな。そのせいで行動が良くも悪くも目立つんだ」
「それだけじゃないでしょう。きちんと結果を残しているじゃない。私がいなくても上手く出来ると思う」
「だから何故そうなるんだ」
こんな消極的でネガティブな錦織を見るのは初めてだった。
「色々物を言ったけれど、結局、私は情報を集めるような単純作業しかできないの」
彼女は唇を浅く噛んで深淵の瞳を閉じた。不意に冷たい夜風が吹く。黒髪が靡いて顔を隠してしまった。




