95.
部活動初日。この日は意見が上手く纏まらず、夕暮れの合図と共に解散となった。
校舎を出て橙に染まる歩道を行く。
「あのっ……男っ」
「ちょっと?錦織さん?」
俺の数歩前を歩く錦織はあからさまにレザーシューズをゴツゴツと鳴らして苛立っていた。彼女がここまで感情を剥き出しにするのは珍しい。
「落ち着けって。壱琉の性格は確かにアレだが悪いやつじゃない。現に入部してくれたじゃないか。気に入らないのはわかるがそれでも、もう少し様子を見るべきだと思うぞ」
擁護にも似た言葉に更に苛立ったのか、彼女は聞く耳を持たない。
俺は頭を掻いて目を逸らしながら言った。
「……そういう錦織も意見を押し付けすぎだ。もっと他人の意見をだな……」
すると錦織は無言で自身の首元を指差した。なにその三猿精神。口で言え口で。どうやら、俺のフードに何か入れたらしい。
「紙……」
手でガサゴソしてみると一枚の紙が入っていた。いやほんと、毎回いつ入れてんだよ。ステルス性高すぎてマジ怖い。
二つ折りにされた紙を胸元で開くと、そこには"壱琉氏除名処分"との記載が。
「断る」
俺は即答した。これまでの努力を水の泡にされては困る。それは彼女も重々承知の筈。
聞き得て錦織は歩く速度をいっそう速めた。
「ちょ、待ってくれよ」
置いてかれまいと俺も歩調を速める。
「あの」
不意に錦織が立ち止まり、一言呟いた。
「なぜ私の帰路に着いてくるのですか?貴方は学校の寮に住んでいるのでしょう」
一瞥しながら彼女は言う。
「それはだな……なんというかなし崩し的に……」
「ストーカー」
「おおぃッ」
錦織は柄にもないことを言う。俺の言葉に嘘はない。誠心誠意本当の事なのだ。今、錦織を説得しなければそのまま離れて部活の存続自体が危うくなってしまうと思ったから、そうしたまで。




