92.
左斜め前には恐ろしげな笑みを浮かべる御令嬢、右斜め前には興味なさげな表情をした美少年。午後の穏やかな夕暮れの中、この教室だけは異様な空気感に満ちていた。
気まずい……部長である俺がなんとかせねば……。
「……まあ落ち着けって、俺が"部長"らしく意見をまとめてやるから安心しろ」
言い終えた途端、恐怖の笑みがこちらを向いて……
「部長……?いつから貴方が取締役になったんでしょうか」
ええ……部活を新設したのは俺の筈だけど……それも駄目なのん。てか錦織の奴、最初はあれだけ反対していたのに今めっちゃやる気あるじゃん……どっかにスイッチでも出現してるんじゃないの?
俺は背筋を今一度直して答えた。
「部活を新設したのは俺だ。どうしてもと言うなら譲るが、ぶっちゃけあまり気乗りするものではないぞ」
「冗談ですよ。部長は貴方が適任でしょう」
錦織は久々に迅速な切り返しをした。俺はまたしても呆気にとられてしまう。
「そ、そうか」
ほんと、冗談なのか本気なのか読めない。何面相あるのこの子?
銀髪の美少年も異論はないのか、挙手して挑発的な笑みを浮かべた。
「僕も賛成だ。今後の展開を考えると、夜崎くんに責任を持たせた方がよかろう」
「どういう意味だ」
俺は苛立ちまじりに言った。
「良い意味で言ったんだ」
フフッと小さく笑いながら手を下ろす壱琉。……マジであの爽やかな"いちるん"どこに行ったんだよ。悪魔に取り憑かれてるんじゃないのこの子?




