89.
「ああ……?なんだこれ。随分と馬鹿でかいけど──」
箱と箱の隙間からは黒光りした筐体が見て取れる。まさかとは思うがゲーム台?
「これは……」
俺の様子が気がかりだったのか、錦織も覗き込んできた。黒髪がさらりと揺れて、モスクが香る。俺は思わず身じろぎして背中を仰け反らした。
錦織は持ち場そっちのけで箱をどかし始め、中から出てきたのは──
「グランド…ピアノ……」
錦織は細目で言い淀みながら呟く。
「ピアノか……俺はまるっきり弾けんがアンティークぐらいにはなりそうだな」
世紀の発見だと俺は思うのだが彼女の表情は感嘆のそれではなく、曇り、ともすれば怯えているようだった。
「錦織ってピアノ弾けるか?」
「手解き程度なら……」
「うお……やっぱり弾けるのか。いや、全く違和感ないんだけどね?」
「……」
錦織は居心地悪そうに顔を背けた。嫌な思い出でもあったのだろうか。
「夜崎。こちらではソファにテーブル、テレビ付きの家具が見つかったよ」
埃を払いながら壱琉が言う。錦織の様子を気に掛けながらもその場を後にし、彼の元へと向かった。
「おお……これはもうリビングルームだな。流石のオサレ高校。設備だけは整っている」
汚れた教室とはいっても精々半年そこらの話らしく、全てを片付けた頃には新築同然の様相になったのだった。




