87.
「開けぇ〜ごまぁ〜♪」
よく分からない合言葉を発しながら鍵穴をカチャカチャする先生。お馴染み、きゃぴるんティーチャーの綾崎智紗だ。
未だ日は落ちない放課後。俺と錦織、壱琉の三人は部活動で使用する予定の空き教室を訪れていた。
「オープンザドァー……うっ」
不意に綾崎先生が口を覆い隠した。
何事かと教室内を見てみると、雪のように舞い散る大量の埃。
「え……なんですかコレ」
「この建物はつい数年前に作られたものだと聞いておりますが……」
流石の錦織も動揺を隠せない。
俺達の反応を見るなり、ビクッと肩を振るわせる綾崎先生。さては──
「あれぇ〜おっかしいなぁ……前に使用した生徒が掃除をした筈なんだけど。あー、でも管理は担当顧問がするんだっけ……あ」
一同の視線が綾崎先生に向けられる。
「いっけなーい!急用を思い出しちゃったぁ!あとは自由に使っていいから、ではではよろしく〜」
捨て台詞を言うなり、足早に走り去る綾崎先生。ようは管理を怠ったらしい。まあ、可愛いから許そう。それしたら何でも許されちゃうんだよなぁ……。
そういや、さっきから壱琉の主張がないな。姉に怖気付いたのかしらと一瞥すると……
「帰る」
「お……おいおい!ちょっと待てー!」
すぐさま俺は華奢な壱琉の腕に掴みかかった。
「冗談だよ。この程度で引き下がる僕じゃない」
フンッと鼻を鳴らす壱琉。
小馬鹿にしたような仕草が少し気に触るがまあいい。割とマジで焦った。冗談でもほんと辞めて。頼むよいちるん。
俺は掃除用具から箒を取り出すなり、言った。
「さて、新たな日常を始めるとしますか」




