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75.

「…そうだな」


 俺はぽしょりと頷き返すと、五十嵐の方へ身体を向けた。


「で"模擬食事会"って、具体的には何をするんだ?」


 五十嵐はいつになく上機嫌な声で言った。


「綾崎先生と一対一で軽いディナーをしてもらいます〜」


「「はい…?」」


 男女の声音が重なった。理解不能だと声を漏らしたのは俺と錦織である。


「腐っても本番の相手は私達と同年代なんですよ?…何なら、五十嵐さんや私が相手をした方が…」


 錦織はごもっともな正論をもって五十嵐に提案した。しかし、五十嵐はそれを制して、からかうように言う。


「あれぇ〜、もしかしてさゆちゃん。夜崎くんを取られるのが嫌だったり?」


「そういう事ではないです」


 錦織は友人の冗談をバッサリと切り捨てる。いや、別に恋愛感情じゃなくていいのよ?ほら、俺達最強コンビだし。そういう意味で嫌だったんだよね。そうだよね!


「綾崎先生とディナー…」


 言っている意味が分からなかった。錦織が言うように、腐っても本番は高校生相手なのだ。ましてや大人の女性でしかも担当教員と食事なんて…ヤバい滅茶苦茶緊張してきた。


 真偽はいかなるものかと、綾崎先生の表情を一瞥すると、柔かな笑みを返してくるではないか。嘘だろ…マジでやるんかい!


「ふふ。夜崎くん。私が大人の嗜みというものを教えて上げましょう」


 綾崎先生は胸に手をあてて、美しい二重を徐々に見開いてみせた。表情に前のような蠱惑的な雰囲気はない。普段の大学生じみた装いと、似ても似つかない品位がいつの間にか見え隠れしていた。


「…そ…そうですか。では…宜しくお願いします…」

 俺は冷や汗を滲ませながら、しどろもどろに答えた。


 服装は普段とさしも変わらないのに、仕草と表情だけで相手を圧倒してしまう。そんな綾崎先生を五十嵐や錦織は理想の女性像と見ているのだろうか。ふと、そんなたわいもない事を思う。

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