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74.

 それからというもの、俺は毎日放課後に家庭科室を訪れては自主練習をした。


 五十嵐は見立て通り料理部の部長をしており、当然ながら部活の事項が最優先であるので丁寧な指導を受けられたのは初日限りであった。


 一方、錦織も偶に自主練の様子を見に来るくらいで直接的な指導はしなかった。自立を促しているという事だろうか。


 俺は”しつけ部屋”で一人、入室から食事の作法までを入念に確認していく。この体験はいつか社会で生き抜く為の武器になるのだろう。


 最初は面倒だと感じていた一つ一つの作法も、俯瞰してみれば美しい動作と繋がりなのだと気付かされる。無知とは響き以上に恐ろしいものであり、情報の不足は偏見という険悪なものにも繋がりかねない。


 結果として俺は目的を果たす以上に、大切な学びを獲得する事が出来た。普段、使わない知識や動作であっても、いつか必ず役に立つのだ。自信をみなぎらせながら俺は最終指導日を迎えた。



 ♢ ♢ ♢



「最終指導日…ってなんだよ」


 いつものしつけ部屋。俺は入室しながら、一つぼやいた。


 目の前には錦織に五十嵐、それに綾崎先生までもが集結しており、ガールズトークを繰り広げている。


 今日は本番まで二日と迫った木曜の放課後である。どういう訳か、綾崎先生が壱琉とのアポを既に取ってくれていて、前回のように姑息な手段を使う必要がなくなった。当然ながら、俺や錦織の名前を出すと断られるので建前としては綾崎先生との立ち会いという事になっている。


 にしても何故、壱琉は綾崎先生を許可したのだろうか。


 彼は基本的に一人で食事をするスタイルであると前回から聞いていて、美人を手玉に取るような性格とも思えない。


 まさか特別候補生の担当教員である綾崎先生に、俺達を近づけないよう話すつもりだろうか。


 募る疑問を綾崎先生にぶつけてみたいのだが、煙に巻かれるのは経験則から目に見えている。


「今日は最終確認を兼ねて、模擬食事会をしたいと思います〜」


 料理部部長の五十嵐が気前よく手を合わせる。


「道のり長ぇ…もう本番直行で良くない?作法も結構身についたし」


「最終確認は非常に大事な工程の一つです。…彼を意地でも部員に引き入れたいのでしょう?」


 錦織は落ち着いた声音の後、俺の本心を問うてきた。

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