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72.

 家庭科室にしては非常に珍しく、部員が普段使用している女性用・男性用のロッカーがあったのでそこを使わせて貰った。


 手元には折り畳まれた黒のスーツにインナー、ネクタイ。着る要領自体は学校の制服とさほど変わらないので特に苦戦する事はない。ベルトは大人用だと大き過ぎるので制服で使用しているものを代用した。これくらいは工夫の観点で許容範囲だろう。


 全身鏡を見ながら髪を手櫛で整え、全体のバランスを確認する。


「格好いいな…これ…」


 思わず自画自賛の小言を漏らす。


 ブランドが持つデザイン性もあるんだろが、何より「無難 is 無難」な黒基調の装いにしたから、初心者でもそれなりの風格がある。


 先程の部屋まで堂々と直進した。


 途中、数人の部員から何とも言えない視線を浴びせられたが、どうせ特別候補生という存在を嫌っているのだろう。気にしない。


 部屋の前までくると、扉越しに女子生徒の談笑が聞こえた。緊張感はまだない。しかし、人影が視認された時点でマナーの精査は始まっているだろうと予見する。


 俺は談笑の声が小さくなるのを確認してから、静かに扉を開けた。見るがいい。この圧倒的な風格を!

 瞳を伏せて暫し佇む。


 けれど、いくら待とうと「カッコいい」というワンフレーズは飛んでこない。冷や汗を滲ませた俺は様子を確認しようと、片目を開けた。視界には何とも言えない表情をした錦織と五十嵐。


「黒い」


「…期待外れ」


 え…?何この微妙な反応…。ま、まさか制服ベルトの代用が不味かったのか!?


 俺は挙動不審に身体を揺らすと、ふと思いついた。壁側にもたれ哀愁の表情を見せる作戦。


「フッ…」


 再度、片目をチラリ。


 彼女達の表情は怪訝なものとなっていた。おいー!紳士の鉄則20とかいう本、当てにならないじゃねぇかー!


 心の叫びが終わると同時に、俺は項垂れた。


 錦織が歩み寄ってきて、呆れた感想を漏らす。


「同調を誰よりも嫌いそうな貴方がその装いとは。個性のかけらも無い…」


 ぐぅ…まさかここに来て、過剰なまでの個性が最適解とは…。毎回、呆られるものだからつい控えめにしてしまった。


「それにこの服、インフォーマルなスーツじゃない…。これじゃあ、店にも入れないよ」


 五十嵐が頭を抱えて、苦言を吐いた。


「何その…フォルマージュだかモンタージュだかよく分からん言葉」


「普段とか日常を表すニュアンスの言葉だよ…。略礼服とも言ってね、簡単に言えば形式ばってない服装って事だよ」


 畳み掛けるように、錦織が捕捉を付ける。


「一般的な高級レストランでも、好まれるケースはありますが、今回は相手が相手です。タキシードが無難でしょう」


 タキシードを見る機会といえばスパイ映画くらいだぞ?言い慣れているから、やはり彼女スパイなのでは?いや、アサシンだったかしら。

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