71.
よし…。
決意して、俺は短くため息を切った。
早速椅子に座ろうとしたのだが…、
「まだよー。まずは身嗜みを整える所から始めましょ」
五十嵐は着席しようとした俺に「待った」をかけると、一度閉じていたクローゼットを再び開けた。
高級ブランドの数々。綾崎先生が用意した設備とは聞いていたが、全てが私物という訳ではないらしい。
俺でも着れそうな男性用の丈を調節したスーツなどがあって、新規で購入したものかもしれない。
「ほぉ〜、グリッチにデューオールに…ロイヴァントンまである…。有名ブランドは一通りあるみたいだな」
俺は腕を組みながら、知っている限りの名前を連ねた。あまりに著名なブランドの数々だから、綾崎先生の趣味嗜好が現れているとも思えないが、何にしろ壮観過ぎる光景だ。自然と観察してしまう。
ふと、横目を見やれば五十嵐が怪訝な表情、錦織が浅いため息をついていた。
「え、何?夜崎くん何者…?」
五十嵐が引きながら、困惑している。
「ブランド名だけは、一丁前に出てくるんですよね…」
呆れた口調で錦織が答えた。
いや、だってさ。家に入ってくるブランドのチラシとか見ちゃうじゃん?買えないのは重々承知だから、そのチラシをコレクションする事によって欲求を解消していたりするんだよなぁ。共感出来る人いない?おーい。
五十嵐は俺達二人を交互に見ると、また正面を向いた。
「……気を取り直して、まずは服選びから。夜崎くん。自身のセンスでコーディネートしてみて」
「…コーディネートって、自分でするのか?」
弱々しい声音だったからか、五十嵐が人差し指をビシッと俺の眼前に向けた。
「当たり前でしょう。センスはどうであれ、一番大切なのはその人の個性だもん。まずはそこを見たい」
はいはい個性ね。個性。
かくいう五十嵐に個性があるのか問い詰めてみたい所だが、今は指導教員。同じ学生と言えど、目上の立場なのだ。ここは素直に従おう。
「分かりました…。では夜崎辰巳のファッションセンスをご覧にいれましょう」
調子のいい声音で言い放った。
錦織は慣れたのか半ば無視を貫く。一方、五十嵐は唾液を一つ飲み込む程度には緊張感を滲ませていた。
大口叩いて、さて、どうしたものか。女子生徒一人は妙な期待をしているようだが俺自身、真面に服選びなどした事がない。鼻から本棚を適当に探って、上下を揃える所望であった。




