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70.

 手持無沙汰だった。


 クローゼットの中の本を適当に読み漁っていると、背面越しに声を掛けられる。


 振り返れば、中央に置かれたダイニングテーブルにテーブルクロスが引かれ、食器やカトラリーが美しく並べられていた。


「これでよしっと…。ざっとこんなもんかなぁ…」


 五十嵐がテーブルの全体像を見ながら、腕を組んだ。


「これだけ大掛かりな練習場所を作ってもらったんです。…真面目に受けるんですよ」


 錦織は鋭利な片目を覗かせる。


「…勿論だ」


 俺の方から頼んだんだ。態々、ふざけるような真似はしない。


「そういえば、どうしてテーブルマナーを学ぼうと思ったんですか?ウチの部活でもまともに出来る人なんてほぼいないし…。普通の家庭ならまず必要ないと思うけど…もしかして……厳しいお家柄?」


 五十嵐は口元に手を当てながら話しかけてくる。


「あ…いや、そういう訳ではなくてですね……」


 きちんと相手の目を見て会話してくるもんだから、つい恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。


「私が事の経緯について説明しましょう」


 言い淀む俺を尻目に錦織が理由を説明してくれた。


 言い終えた後、五十嵐が錦織との距離を近くして何やら囁いていた。


「もしかして気になってるの?」


 錦織は乾いた声音で「冗談も程々に」と言って、五十嵐の忍び声を切り捨てる。五十嵐は他の一般生徒同様、色恋沙汰に興味があるらしい。


「彼は学内で知らない人はいないくらいの有名人だからね。成績優秀、語学堪能。おまけに人間離れした美しい容姿。男女ともに熱視線を日々、浴びせているよ」


 ほう。そんなにも著名だとは知らなかった。成績優秀なのは綾崎先生から聞いた話や、風貌から何となく察しがついたが語学堪能とは。全く、スカウトし甲斐いのある男だ。


「話を聞く限りでは壱琉君、食事に対して相当なこだわりがあるみたい。これは確かに…テーブルマナーを知らないと話にならないね」


 五十嵐はまるで自身の勝負事でもあるかのように、表情を真剣なものにした。斯くして、二人のプロフェッショナルによるテーブルマナー指導が始まった。

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