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67.

 透き通った冷たい声音は場の人間を硬直させるのに充分だった。


「錦織!?…それに綾崎先生?」


 意外な人物の登場に、思わず声を上げてしまう。俺は掴んだ張り紙を力無く手放すと、二人に向き直った。


「錦織さんではないですか!」


 声高に反応したのは俺だけではなかった。どういう関係か、五十嵐が錦織に歩み寄る。


「お久しぶりです五十嵐さん。入学式以来でしょうか」


 錦織は他人面をする事なく、慣れた口調で社交辞令を述べた。どうやら、知り合いらしい。


 錦織は五十嵐に「失礼」と言って先を通して貰うと、俺に歩み寄っては怪訝な表情をして非難してきた。


「どこで何をしているかと思えば女子生徒を襲う暴挙に出ていたとは…流石に弁解の余地がありませんね」


 錦織はため息一つしながら、呆れた声音で言う。


「おい…。どこをどう見たらそんな風に…」


 俺が不満げにごちり出すと、錦織は言葉を待たず発言してくる。恐らく、前言は冗談と見ていいのだろうと勝手に悟った。


「加えて、部活を立ち上げるどころか、他の部に寝返るとは」


 確実に勘違いされていた。これはきちんと説明せねばなるまい。


「…アイツの件で必要だと思ったから、テーブルマナーに詳しそうなこの部活に協力を求めたんだ。なんか文句あるか?」


 パソコンで調べるにしてもまずローマ字を打ち込む時点で詰んでいるし、本で調べるにしてもいまいち実感が湧かない。ならば、実技を通した練習をする他なく、この方法を選んだのである。


 俺はまだ壱琉を部員として迎え入れる事を諦めてはいない。しつこいまでの粘り強さが売りの特別候補生だ。一度、断られたくらいで凹む豆腐メンタルではなかった。


「ていうか、何でこの場所が分かったんだ」


 俺は当然の疑問符を錦織に投げかける。


 彼女は素っ気ない表情をした後、迷惑そうな声音でぼやいた。


「…貴方が乗り込んだエレベーターを丁度目撃したんですよ。放課後行く場所にしては不自然な階に降りたようだったので跡をつけたんです。…綾崎先生とは途中の階でばったり会ってしまってね」


「ど〜も〜」


 錦織の後ろでひらひらと手を振る綾崎先生。まあ、どうせそんな事だろうと思ってはいたが。


「素直に"教えて欲しい"って言えばいいのに」


 錦織の隣に着いた五十嵐が先程とは打って変わった、不満さえ滲ませた優しい声音をこぼす。


 アンタなぁ…。錦織が来なかったら、どうせ正面から頼んでも拒み続けただろうに。不利益が生じると分かった途端これだよ。最早、俺一人では回りくどい手法も無意味に等しいのであった。


 五十嵐は呆然としていた後ろの女子三人に「持ち場に戻りなさい」と、優しく声をかけた。そして、残った面々をそれぞれ確認すると楽しげな口調で言った。


「親友の友人とあらば全面協力する他ないよね!」


 ようやく殴る蹴るという恐怖に怯える事なく、腕を奮って貰えるようだ。

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