5.
渋々、階段を三階まで登り、長い廊下を突き当たりまで進んだ。俺達の一年Dクラスはアルファベット順で最後のクラスにあたるのである。どうやらここが目的の場所らしい。
教室後方の戸を壱琉がスライドさせると、中に入るよう手招きしてきた。これから一年間過ごしていく教室だというのに俺は「失礼します…」だなんて随分と弱々しい声を漏らしながら中へ入る。
静まり返った教室。
フェミニンな香りが鼻孔をくすぐる。
目に飛び込んできたのは教卓に佇む若い女性教師でプリントを何やら整理している。
茶がかった黒髪ポニーテールに美しい顔立ち、モデルではないかと疑うほっそりとした足、くびれ。モカ色のカーディガンにこじゃれた模様であしらわれた長めのスカート…ファッションセンスもかなりレベルの高い方ではないだろうか?
教室の全体像はというと実に閑散としており、その際たる理由としてほぼ全ての席が後方へと寄せられ(掃除をする時のような)、中央に横整列された席が二つ設けられているだけという何とも殺風景な状態だった。
いや、なんだよこれ。俺ってそんな問題児なの?確かに昨日女子に苦言を吐いたけど、本質だから俺に罪はないはず…もしかしてそれをチクられたのか?
苦い表情をする俺を見て壱琉は「大丈夫」と補完した上で座るよう促した。席につくが否やプリント束をストンッと立てる音がして、
「おはようございます。皆さんというか…そう!お二方」
やや不恰好に話し始めた女性教師。
か、可愛い…じゃなくて何だこのフワフワした先生らしくない先生は。
「おはようございます綾崎先生。なんとか彼を連れてくる事が出来ました」
「ご苦労様ですっ壱琉くん。おお~この子が噂に聞く辰巳くん…なかなかイケメ…」
「先生」
「はっ!そ、そうでしたねっ。早速ですが、これから学期始めの確認テストを行いますっ」
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