54.
学食は一年生教室を二つほど上がった階にあり、入口付近には既に人の列ができていた。
「なるほど…これが学食…。いや、想像と大分違うな…」
一般的な学食といえば入口付近に食券販売機が設置されていて、セルフで料理を受け取るのが普通だ。しかし、この成金高校。最早、学食という平民の食事をさせる気は更々無いらしく、入口付近には名前を入力するタブレットが置かれ、店内にはウエイトレスが注文に応じて各テーブルを廻っている。
「おいおい…値段も学食っていうレベルじゃねえぞ…。マジではいるのか?」
俺が冷や汗まじりに困惑しているのを尻目に錦織は気乗りしていた。
「私達には食事券があるじゃないですか」
「いや、そうなんだが…態々、この高校で使わなくてもよくな」
口にした途端、急にひんやりした衝動が腹を抉った。ヒヤリハットというやつだ。
錦織は急に口を噤んだ俺を不可解に思ったのか、覗きこんできた。
「どうかしました?」
「…実は食事券受け取らない事にしたんだ。だから、その…一枚も持ってない」
錦織は少し意外そうな表情を見せたが、直ぐに立ち直って、「そうですか」と端的に答えた。
「…怒らないのか?」
「怒りませんよ。大体、断ったのは貴方だけですし、私には適用されていません」
「確かに…」
今思えばとんだ格好つけをしたものだと思う。自力で何とかしますだなんて、よく考えてみれば金銭面においてこの高校では立ち回れない箇所が出てくる事は予想出来た筈だ。
錦織は背を向けると、タブレットに名前を入力し出した。
「…私も正直、いい気分はしません。毎月、三枚無料券が貰えるなんて。高校生にしては贅沢過ぎますし、何より平等性に欠けます」
実に意外な言葉だった。錦織は俺同様、他者を断罪し、自身の優位性を保ち続けながら、優越感に浸る人だと思っていた。
「錦織…」
「私の食事券を一枚使うので費用面は安心して下さい。"特別"である以上、成果に見合う報酬があるのは必然であるとも私は考えます。ですから…この二枚を大切に使えば罰は当たりませんよ」
「…すまない。恩に着る」




