53.
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4時限目が終わり、昼休みとなった。
他生徒の大半は筆記用具や教科書をしまうが否や、次々に教室を後にしていく。(一般の高校のように学食や売店ダッシュなんて事は起きない)残るのは友人がさほど多くない生徒や、不思議ちゃんくらいで俺と錦織もその一部だった。
「ふわぁ…やっと昼休みか…」
欠伸まじりに一言呟いた。今日は季節感のあるいい陽気で窓から入った柔らかな光が教室一杯に広がっている。空腹だというのに、直ぐにでも微睡んでしまいそうだ。
「相変わらず覇気のない昼休みですね。睡眠不足は一日を駄目にしますよ」
見やれば錦織が前方に佇んでいた。
俺は突っ伏していた身体をなんとか起こすと、手でフードを一度探った。手紙はナシ。
「錦織から声をかけてくるとは珍しいな。今日は女友達と昼食を摂らないのか?」
錦織は特別候補生といえど俺ほど嫌われている訳ではない。寧ろ一部の女子生徒からの信頼は厚いようで昼食を共にしている姿は何度か見かけた事がある。
「ええ。今日は丁寧にお断りさせて頂きました」
ほーん。偶には一人で食いたい時でもあるのかね。かくいう俺は毎日問答無用で一人昼食タイムだけど。眠気を覚ますように、勢いよく椅子から立ち上がった俺は教室の出口へと向かう。
すると、背面越しに声がかかる。
「こちからお誘いしたのにも関わらず、無視するとは」
「え?いや、錦織は一人で食べる予定なんじゃないのか?」
「覇気がない上に察しまで悪いとは…」
錦織は顳顬に手をやって、ため息を漏らした。
いやいや、普通に考えて誘っているかどうか分からんだろ。大体、俺から誘った時は気持ち悪い扱いされて軽蔑されたんだが。
「学食へ…行ってみませんか?勿論、ただ単純に食事をしに行く訳ではありません。先日の件を兼ねて、お話出来たらと」
…。そんな所ではあると思ったが。にしても回りくどい誘い方をする子だ。素直に一緒に食べたいと誘ってくれていいのよ?




