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52.

 後日。いつものラウンジにて。


「それ…ただの社交辞令では…?」


 錦織は胡散顔で俺を咎める。


「ちょっ、何を言っているんだ錦織。爽やかな挨拶に笑顔。あれは確かに嘘偽り無い装いだったぞ」


 俺は手をあたふたさせながら冷や汗気味に、入学式の時の壱琉の振る舞いについて擁護していた。錦織はため息をついて、


「それを社交辞令って言うんですよ。誰だって第一印象は良くしたいものです。大体、当の貴方が印象偽装をしていたんです。他に何が信じられますか?」


「う…それは…」


 流石、正論製造機…。言論に関しては何言っても勝てる気がしない…。しかし、こちらにも言い分がある。


「…例外だ。特別候補生なんて制度、他校には無いからな。間合いを見計らう為には致し方ない」


「貴方ねえ…」


 単純に口から出まかせという訳ではない。実際に変わった制度を持つ高校なのだから、筋は通っていると思う。


「とにかく、今は壱琉の足取りを掴む事が先だ」


 錦織は顎に手をやってふむと考える。凛とした素顔は探偵のような気質が見え隠れして、不思議と様になっている。


「足取り…まあ、あの様子では確かに直接交渉は無理でしょうね」


 俺はテーブルに視線を落とす。


「壱琉のクラスは職員室で聞いた所、一年D組という事が分かった。おまけに特別候補生という肩書付きでな」


 錦織は目を丸くする。


「驚いた。彼も特別候補生でしたか。…いや、ちょっと待って下さい。それは少し妙ですね…」


「何がだ?」


「貴方の話に基づいて考えると、壱琉くんは持論テストのプリントを自身のスクールバックに入れたのですよね?」


「ああ。先生に提出する事なく、そのまま自宅に持って帰ったと思う」


「では提出せずにどうやって特別候補生になったのでしょう?」


「…それについてはさっぱり分からんが、なんせこの高校だ。裏口入学だの何かあんだろ」


「仮にその様な事があったとしても、貴方を誘ったメリットが理解出来ません」


「言い方が酷えな…」


「事実だと思いますが。特別候補生の枠組みは少ないですから、態々、敵を増やすような事をしても意味がありません」


「一理ある…一理あるが彼自身の優しさってやつかもしれんだろ」


 錦織は乾いた目で、


「初対面で?」


「う…」


「あの振る舞いで?」


「…ぐ」


 錦織はため息をついた。


「お人好しが過ぎるのか何なのか…。もう少し疑う目を持って下さい。何より貴方に近づく存在こそ怪しいと思った方が最善ですよ」


「またもや辛辣ゥ。自覚はあるよ…」

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